■Medi-Wing 18より
医療研究室
東京民医連 高田満雄
【わかば薬局薬局長】
副作用被害から患者さんを守るために
はじめに
薬は、ある病気の治療あるいは症状の軽減を求めて使用するものです。風邪薬で胃が痛くなったり、眠くなった経験はありませんか。これは、解熱を期待して投与された薬の成分が胃粘膜を障害して胃炎をおこしているからです。また鼻水などの症状を和らげるための薬成分が眠気を引き起こすのです。この胃痛や眠気のことを本来の薬に期待した以外の作用という意味で副作用と呼んでいます。一般的には、薬の悪い面として考えられています。臨床医学では、この副作用を如何に小さくして本来の薬の有効性を発揮するように日々努力が続けられています。今回は民医連の副作用モニターについて紹介します。
民医連の副作用モニターの意義は?
現在、国内で副作用モニターといわれるものに、厚生省が行っているものがあります。年間1万件以上収集されていますが、そのほとんどがメーカーが収集した副作用です。メーカーの副作用は、三菱自動車のリコール隠しとまではいかないまでも、自社製品の悪い部分は隠したいという意図が働きがちです。
民医連で行っているモニターは、全国の民医連の院所にモニター員を配置し年間4000件以上の副作用を集積しています。
民医連モニターの最もすぐれた特質は、患者、地域に密着した医療機関が行っている副作用モニターで、メーカーとは違って中立で患者を守る視点で副作用をモニターしている点にあります。
その臨床に直結した速報性を生かしてチエナム(抗生剤)による痙攣、パナルジン(血液凝固阻止剤)による血小板減少性紫斑病など厚生省、メーカーに先駆けてその使用に鐘笛を鳴らした例もあります。ニフェラートL(高血圧治療剤)の頻尿など添付文書記載のない副作用を記載させるのに役立った例も数多くあるのです(表1)。
H2ブロッカーの重篤な副作用
医薬品の中で最も使用頻度の高い薬剤に胃炎、胃潰瘍に使用されるH2ブロッカーがあります。最近市販薬にもなり、コマーシャルでもしばしば登場している「ガスター○○」という胃薬でご存じの方も多いはずです。今回、それを例に民医連モニターの内容を見てみましょう。
厚生省では先ほど紹介した副作用モニターを基に2カ月に一度、医薬品の副作用の情報文書を出しています。その厚生省副作用情報では、このH2ブロッカーの副作用として、痙攣、幻覚、汎血球減少(赤血球、白血球、血小板が減少する症状)を報告しています。汎血球減少では死亡例の報告もあり、患者の命に関わる点で汎血球障害が最も注意を要する副作用になります。
実際にはなかなか入手できない副作用情報
いま医療機関(病院、診療所)向けの各H2ブロッカーの販売メーカーは市販後に1万件から2万件近いそれぞれの薬の有効性、安全性の調査を行っています。実はこの調査で汎血球減少の症例は13件ありました。しかし、厚生省の副作用情報に掲載された数件の症例をのぞいてはその詳細内容がすべては公表されず手に入らないのが現状です。
民医連の副作用モニターでは
民医連の副作用モニターではどうでしょう。
汎血球減少で9件の症例がモニターされており症例詳細もみることができます。
さてこの全日本の副作用モニターから特徴をまとめてみると以下のとうりです(表2)。
発現期間10.2日と短期間で発生していて、最短2日という報告もありました。
この場合、高齢の患者さんには減量、安易な長期投与しない、初回から汎血球減少の初期症状「咽頭痛、風邪症状」などが出ればすぐ医療機関にかかるよう指導する。このように、臨床の患者さんへの利用時の注意点が見てとれるのです。
このデータは、薬を処方する医師、実際に調剤する薬剤師の連繋の中で蓄積されてきました。薬の専門家である薬剤師の情報提供や検査依頼、それを受けての主治医の観察や患者への説明と検査、そして、同様の症例の全国規模でのモニター、患者さんを守る上でチーム医療が機能している一例です。
最後に
ノスカールという糖尿病治療剤が肝障害による死亡者を出して問題となりましたが、先頃、米国、日本で相次いで製造中止となりました。医薬品は「患者の健康を守る」という倫理的な側面がありつつも企業が儲けるための「商品」という側面がいつもつきまといます。
ノスカールのように有益性と危険性のバランスを欠き、作用機序、有害作用の機序も明らかにならないまま医薬品として市場をにぎわすものも多いのです。
民医連では、副作用モニターは患者さんを副作用被害から守り、医薬品を適正に使用したり評価するための情報の蓄積となっているのです。「患者に2度と同じ副作用をくりかえさせない」を原点に出発した民医連の副作用モニターは現在20年以上が経過しました。この情報は民医連内外から非常に期待されるレベルになっています。
多くの患者が身をもって苦しんだ副作用被害を繰り返さないためにも、「患者の人権を守る」活動の一つとして、さらなる活動のさらなる充実が求められています。
● たかだみつお……全日本民医連薬剤委員会委員(副作用モニター担当)
外苑企画商事・わかば薬局薬局長
’92.11.11 | イソジン液のアナフラキシーショック |
’93.02.01 | ベザトールSRによる横紋筋融解症疑いの1例 |
’93.06.01 | インターフェロン投与中の眼底出血 |
’94.07.11 | カルシウム拮抗剤の歯肉肥厚(添付文書なし) |
’95.09.11 | グルコバイによる低血糖症状 |
’96.12.21 | 塩酸バンコマイシンの内服による吸収 |
’97.04.01 | アムロジン、ノルバスクの鼻出血 |
’98.11.11 | リュープリンによる高血糖 |
’99.05.21 | バルプロ酸による急性膵炎 |
*過去8年間の民医連新聞記事「副作用モニター情報」ヘッドラインより抜粋
表2 民医連に報告された汎血球減少症投与量 | 年齢 | 発現期間 | 背景リスク等 | |
汎血球減少症7例 | 常用量 | 平均79歳 | 10.2日 | 高齢に常用量 |