トップページ > 会社紹介 > 施設紹介 > 江戸川台薬局

来てもらえるありがたみを知りました

協同組合 医療と福祉
協同組合報 Vol.10, 2004年1月

事業所を訪ねる 9
(株)外苑企画商事 江戸川台薬局

「絶対に逃がさないぞ!」

 (株)外苑企画商事には8つの薬局があり、その中で一番若いのが江戸川台薬局だ。わかば薬局の「姉妹店」として、2002年10月にオープンした。薬剤師が2人(管理薬剤師の千坂まり子さん、森田みのりさん)の小規模薬局である。

 姉妹店出店の理由は、わかば薬局の処方箋枚数が1日平均500枚になり、スペース的にも対応能力を超えてどうにもならなくなったからだ。そこで、バスを利用する患者さんが最も多い江戸川台駅方面に新設することになった。「それならば、ある程度の処方箋枚数は見込めるだろう」と思うのが普通だが、「来てくれるだろう」と「本当に来てくれるかどうか」には大変な違いがあったという。

 「患者さんが『やっぱり、わかば薬局でもらったほうがいい』となったら、ここは立ち行きません。調剤薬局は診療所などがあって、そこの処方箋を見込む形でオープンするのが一般的ですが、ここはその対応する医療機関がないわけです。ある種、冒険だったんです」と千坂さんは説明する。

 そのうえ、近所には小規模薬局が多い。開設のあいさつに行くと、「えーっ、出すんですか」と残念がられることもあった。

 オープンしてみると、「やっぱり……」と肩を落とす日が続いた。1日10人も来ない日があった。このままでは大赤字だ。お客さんを増やすにはどうしたらいいだろう……。2人はやっきになった。

 「私はわかば薬局にいたんですが、患者さんがどっと来ると、正直な話、『わあ、また来た』と思うこともありました。ここでは1人でも来てくれると、『来てくれた!』と、もう嬉しくて。新しい患者さんが来てくれたときは『絶対に逃がさないぞ!』と、つい力が入ります。対応が濃くなるんですよ」

 たとえば、処方箋に書かれた薬が置いてないという場合がある。「申しわけありませんが、置いてありません」と断ることもできるが、2人の頭には「断る」の2文字はなかった。「あとからお届けしますから!」と答え、夕方、仕事を終えてから届けたりした。

手応え

 こんなこともあった。朝出勤すると、電話が鳴っている。受話器を取ると、おばあちゃんが「インシュリンが打てない!」と半泣き状態で訴える。落ち着かせながら聞いてみると、糖尿病があって昔からインシュリンを打ってきたのだが、最近、注射針が変わったという。場所を聞いてすぐにかけつけた。

 「医療機関の都合で、注射針がペンニードルからマイクロファインプラスに変わったんですね。針の感じがほんの少し違うだけなんですが、85歳という高齢で一人暮らしですから、パニックになってしまったんです」

 普通は1回覚えればもう大丈夫と考えるが、数日して、「できない!」とまた電話がかかってきた。どうもうまく行く時と行かない時があるらしく、失敗するとパニックになるようだ。またかけつけ、やり方を教えた。これが何度か繰り返され、近所の人が「私に教えてくれれば、私がやります」と来たことさえあった。お年寄りの場合、「ほんの少しの変化」でもついていけない場合があるのだ。

 2人は都内に住む娘さんと状況を話し合い、元の注射針に戻してもらうよう病院に相談することをすすめた。こうして数ヶ月の騒動が終わってみると、江戸川台薬局はおばあちゃんと娘さんから大いに頼りにされる薬局になっていた。

 「『このままでやっていけるんだろうか』という不安がずっとあって、とにかく丁寧に応対することを心がけました。そういう中で、新しいお客さんや処方箋を持った患者さんが1人、2人と来てくれるようになりました。恥ずかしいんですが、来てもらえるありがたみというものを初めて実感しました。今までそれに気づかなかったなんて、随分守られていたんだなと思いましたね」手ごたえを感じたのは1日平均20人を超えた頃だった。1年ほどで採算ベースに乗り、現在1日平均40人。50人になるのも近い予感がある。お客さんの95%が処方箋調剤で、受付医療機関数も口コミで少しずつ増えている。

臨床経験のある強みを生かして

 江戸川台薬局には患者さん本人や家族からさまざまな相談が寄せられる。今年の初め、「前を素通りできなくて、新年のあいさつに寄りました」と笑いながらお客さんが入ってきた。「こんなとき、地域の中の薬局だと改めて実感します。相談の電話も時々入り、2人でてんてこ舞いすることもあります」さまざまな相談を受けてみて感じることは、臨床経験の重要性だ。千坂さんは2年間院内薬局で病棟担当をした経験がある。これは臨床経験を重視する民医連だからこそできた事であって、調剤薬局の薬剤師はこの経験を持たない人がほとんどだ。

 「病棟経験があるかないかは、私にとっては天と地の開きがありました。たとえば窓口で応対する場合、薬の能書きだけだったら、誰でも言えるようになります。でも、それがどういう病気で、そこに薬がどう働いて、患者さんの命をどう左右するのかということは、実際に病棟を経験して初めて少しわかった気がしました。手の内に入るというか、自分のものになっていく実感があるのです。病棟での経験は、自分の意見を伝える責任・伝えない責任…… 検討した薬剤で容態が変化していくときの緊張感。うまくいったときの患者さんの笑顔と達成感…… "医療"と薬剤師としての自分を教えてくれた場所だと思っています」

 最近取り上げられる薬の自由販売の問題を考えるにつけ、千坂さんは、いっそう研鑽を積まねばならないとの思いを強めている。

 今年の目標は、と聞くと、「やっぱり口コミで広がる薬局をめざして、頼りがいのある薬局になることですね」と語った。

トップページ > 会社紹介 > 施設紹介 > 江戸川台薬局