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サプリメントを考える 2

くらしと健康 連載コラム

藤竿伊知郎 (薬剤師・外苑企画商事 薬剤情報室)

(6) ビタミンCは野菜不足を補えるか

2003年7月

 サプリメント売り上げのトップは、ずっとビタミンCでした。単価は安くても、たくさんの商品に配合され、いちばん身近なビタミンとなっています。

 大衆薬では、「しみ・そばかす」への効能が宣伝されています。ビタミンの効果は、医薬品でも食品でもかわりません。サプリメントにも、美肌効果を期待している方が多くいます。また、活性酸素による害を抑えることで、老化を防ぐ効果も宣伝されています。

 ビタミンCが、栄養学上、1日に必要とされる量は成人で100mgです。キャベツなどの緑黄色野菜や果物から摂取され、通常の食事で不足することはありません。

 一時、ビタミンCを大量(1日1g以上)にとり続けることで、風邪を予防できるという説が評判になりました。ノーベル賞を授賞した学者が、1970年に本を書いたことが、その元となっています。

 その後、たくさんの臨床研究が行われましたが、風邪の予防効果は否定されています。ただし、風邪にかかった者に大量投与した場合、症状が続く期間が8%(半日)短くなることはわかりました。

 高名な研究者でも、冷静さを失うと大きな間違いを犯すということが、教訓として残りました。

 ビタミンCは水に溶けやすいため、体内に蓄積して害をおよぼすことはありません。しかし、必要量以上を飲んで何らかの効果があるという、科学的証拠は未だにありません。

 食事からの摂取を補う意味であれば、医薬品よりサプリメントを利用する方が安上がりです。しかし、証明されていない未知の作用を期待して、大量に飲むことは、全くのムダです。

 限られた成分だけ入ったサプリメントと比べて、食品からは他のビタミンやミネラルもとることができます。健康維持を考えるなら、ビタミンCが多い食品をもう1品増やすことから始めてはいかがでしょう。

(7) 骨を丈夫にするカルシウム

2003年8月

 人気のあるサプリメントとして、カルシウムは広く使われています。医薬品としても、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)の治療にカルシウム剤が使われます。

 日本では、他の栄養素は足りていても、カルシウムの摂取が少ないことが指摘されています。健康な老後生活のために、若いうちに丈夫な骨を作っておくことが大切です。

 成人の必要量は1日600mg、成長期や妊産婦には5割増の量が推奨されています。手軽にカルシウムを補給できる錠剤は、食事で不足している分を補うために便利です。

 食事中のカルシウムを有効に利用するためには、ビタミンDが重要な役割を果たします。また、マグネシウムなど他のミネラルとのバランスをとることが重要です。

 カルシウムを必要量の何倍も摂ったからといって、健康増進になるわけではありません。少しぐらい多くとっても障害はでませんが、ミネラルのバランスを崩せば、鉄分の利用を妨げたりして健康被害を起こします。

 ビタミンDといっしょに大量にとり続けた場合、高カルシウム血症をおこし、体内にカルシウムが沈着することもあります。

 カルシウムは吸収されにくい物質です。サプリメントの中には、吸収されやすいことをうたっているものもあります。しかし、治療に用いるのでなく、日常生活で大量のカルシウムをとり続けることは、安全性の面でお勧めできません。

 カルシウムを入れていると宣伝していても、十分な量が入っていないお菓子の類もあります。カルシウムを摂っているつもりが、カロリーオーバーになることも起こります。

 カルシウムに限らず単一の栄養素をバランス良く利用することは、難しいものがあります。その点で、食事の充実に代わる物にはなりません。いろいろな効能をうたったサプリメントを試してみることは楽しいことですが、牛乳や小魚などを食事に増やす方が、総合的にみて健康維持につながります。

(8) アミノ酸だけでは痩せません

2003年9月

 アミノ酸の入った清涼飲料水がブームになっています。アミノ酸サプリメントの売り上げものびています。売上金額は、2年前の5倍という急成長ぶりです。今年4月におこなわれた消費者の購入意欲調査では、ビタミンCについで2位になりました。前年の4位からカルシウム・コラーゲンを抜いての躍進です。

 筋肉の疲労を回復させ、スタミナを付けることをうたった今までの宣伝にプラスして、「体脂肪を燃焼させる」との痩身効果が注目を浴びています。「こんな運動しなくても」というTVコマーシャルが話題になりました。アミノ酸をとるだけで痩せるかのような大宣伝がつづいています。

 5月31日の朝日新聞にわかりやすく解説されていますが、「アミノ酸が体脂肪を分解する酵素を活性化する」という俗説が広まっていることが問題です。たとえ、そのような効果があったとしても、血液中に流れ出た脂肪を運動で消費しなければ、また元の脂肪に戻ります。

 それどころか、アミノ酸をとっているつもりで、カロリーのある食品を余分にとることから、かえって太ることさえ考えられます。

 アミノ酸がブームになる前は、プロテイン(たんぱく質)が同じような「効能」で盛んに宣伝されていました。科学的なよそおいを強めていますが、だまされてはいけません。

 過酷な運動をおこなうスポーツ選手が、筋肉痛や運動障害を軽減するためにプロテインやアミノ酸を補給することは、医学的に有効とされています。

 肝臓の解毒機能が障害されたときに、分枝鎖アミノ酸を医薬品として服用するなど、生理機能のバランスが大きくくずれたときには、食事の補助が必要となります

 しかし、普通の生活をしているものが、食事に追加してたんぱく質やアミノ酸をとることはムダです。アミノ酸は普通の食品成分です。怪しい宣伝を信じて、高い値段でアミノ酸入りサプリメントを買うのはやめましょう。

 また、清涼飲料水には500ml中に1gと、少ない量のアミノ酸しか入っていません。筋肉を守るために運動直後にアミノ酸をとるためには、アメリカの研究では10gが必要です。摂取するときには、内容を見て使いましょう。

(9) ビタミンEで「老化防止」は、要注意

2003年10月

 ビタミンCとならんで、抗酸化物質と注目を集めているのがビタミンEです。ビタミンEは、「活性酸素」の毒性をけし、コレステロールの酸化を防いで動脈硬化を防ぐと宣伝されています。サプリメントとしては、お定まりの「ガン予防」をうたっている健康本があふれています。

 ビタミンEは、更年期障害などに伴う「しびれ・冷感」に対して、手足など末梢血管の循環を良くする目的で、医薬品として使われています。大手メーカーが大衆薬として目立った宣伝をしていますので、みなさんもご存じのことと思います。

 ビタミンとしての1日最低必要量は8〜10mgです。脂溶性ビタミンですから蓄積することを考えて、上限は1日あたり600mgと設定されています。

 2001年の国民栄養調査結果では、所要量に届かない7栄養素の一つとなっています。食品では、植物性の油や、落花生などのナッツ類に多く含まれますが、卵黄・大豆・玄米などからも摂取できます。

 動脈硬化を防ぐことをめざして、抗酸化ビタミンを投与する大規模な臨床試験が続けられています。現在までのところ、動脈硬化の進行を防いだとする報告もありますが、心血管の病気による死亡率を減らすという効果は見られません。また、コレステロールを低下する薬剤と併用すると逆に、症状を悪化させたとする報告もあります。

 6月に米国予防医学専門委員会が出した報告では、ビタミンA・C・Eや葉酸には、ガン・心血管疾患の予防効果がないとされています。さらに、βカロテンでは喫煙者にガンを誘発する可能性も指摘されています。

 試験管内で観察されることや理論的の予測されることが、実際の治療につながらないことの、実例です。

 食事において、ビタミンEだけを意識してとろうとすると、カロリーオーバーになってしまいます。含有量の多い食品に偏らず、野菜や胚芽米なのど精製度の高くない穀類といった、たくさんの種類の食品をとる食生活は、生活習慣病の予防になるでしょう。

 一方で、ビタミン不足を恐れて大量のサプリメントをとることは、有効性と安全性の面から十分なデータがないため、現時点ではお勧めできません。サプリメントの利用は、あくまで補助としましょう。

(10) 飲み合わせに注意がいる、セント・ジョーンズ・ワート

2003年11月

 「気分がふさぐ」「疲れがとれない」などの「抑うつ症状」で悩む方に、セント・ジョーンズ・ワートが利用されています。日本では"セイヨウオトギリソウ"と呼ばれるハーブですが、錠剤やカプセルといったクスリのような形で販売されています。ドイツでは医薬品として利用されていますが、米国や日本では食品の扱いです。米国ではハーブのトップ商品になっています。

 厚労省による調査によれば、15人に1人がうつ病を経験したけれど、3/4の人は診療を受けていません。現在、労働環境の厳しさと人間関係のストレスから、心の不調を訴える人がふえています。

 軽度から中度のうつ病患者に対する欧米の臨床試験で、セント・ジョーンズ・ワートの有用性が認められています。効果が現れるまでには、数週間かかります。副作用は、抗うつ剤と比べると少ないけれど、十分なデータがありません。ドイツでの利用も十数年前からで、有効成分や作用メカニズム、適切な使用法については、よくわかっていません。

 1998年に医薬品に似た型のサプリメント販売が許可されてから、米国でのブームが反映してきました。医療従事者にとっては、2000年5月、いっしょに服用した医薬品の効果を弱めるという安全性情報がでてから注目されるようになりました。

 医薬品の効力をなくす酵素を誘導することから、市販されている薬剤の半数が影響を受けます。強心剤のジゴキシンではその血中濃度が25%も下がることから、効能に重要な影響が出ます。

 食品として扱われていますが、医薬品として考えることが必要です。使用に当たっては医師・薬剤師に相談が必要です。

 また、うつへの対応方法は、薬だけでは難しいため、6週間使っても効果が十分でない場合は精神科を受診した方がよいでしょう。

 医薬品として品質保証されていないため、製品による有効性はかなり差があると考えられます。購入に当たっては、高すぎるもの・大げさな宣伝をしているものは避けるようにしましょう。

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