調削薬局における医療安全の取り組み
協同組合 医療と福祉
協同組合報 Vol.8, 2003年11月
トピックス インタビュー
外苑企画商事安全性委員会 高田満雄
● 「外苑企画商事では「安全性委員会」を立ち上げたそうですが、どんな取り組みを始めているのでしょうか。
外苑企画商事には8つの調剤薬局がありますが、薬局のトップである薬局長を安全委員として、2003年2月から「安全性委員会」を2ケ月に1回のペースで始めました。医療安全については全日本民医連でも盛んに論議されていて、今年4月に「医療安全交流集会」が開催されました。その中で、「安全性の文化をつくつていく」ことが方針として提起されました。
この5年ぐらいの間に医科法人での安全問題の取り組みは、各院所にリスクマネージャー(医療安全活動の推進リーダー)を置くなどして非常に進みました。それに比べて薬局法人は後手に回っているという危機感があります。調剤薬局というのはもともと医療の安全装置の役割を担っており、薬に関しての安全管理が業務の主要な部分を占めています。
ただし外苑企画の薬局では旧態依然とした形で経験則的に行われているきらいがある。リスクマネージメントという視点では充分取り組まれていないという現状があって、そこは遅れているなと。そこで、もう1回自分たちの作業を「安全」という視点で見直し、業務を組み直していくという作業が必要だと思ったわけです。
● 「具体的な取り組みは始まっていますか。
まず、今年9月に「調剤過誤防止マニュアル」をまとめました(末尾の表参照)。作成する過程で論議したことは、マニュアルというものは往々にして形骸化しがちなので、「活用しつつ随時修正してどんどん豊かにしていこう」と確認し合いました。新人研修でもどんどん使っていこう、と。
それから、「インシデント・レポート」の取り組みを開始しました。インシデント・レポートとは調剤過誤になりそうになったケースの報告です。なぜインシデントが起こったのかを分析して、それによって危険因子を取り除き、大事故を防ぐ。
小規模薬局では、常時インシデント分析します。たくみ外苑薬局、わかば薬局は1日の処方箋枚数が300枚、400枚という大型薬局で、実際問題、インシデントは毎日10件、20件と発生します。それを毎日レポートすると業務が増えますので、「インシデント・レポート月間、週間」を決めて集中的に取り組みました。常時できない所は、定期的に月間週間を持って今後やっていく予定です。
もう1つは「調剤過誤防止のための安全管理総点検表」でチェックする取り組みも始めました。たとえばマクドナルドのトイレに入ると、掃除のチェック表が貼ってありますが、ああいう形でシステマチックにすることで清潔を保つ。それと同じように、この「安全管理総点検表」の項目で1つずつ具体的にチェックして安全性を高めようというわけです。
たとえば、この表を見てください。「調剤室の整理整頓清掃」の項で「分包機の清掃は毎日行っている」には「○」がついていますが、「分包機の内部の清掃を定期的に(1週間に1回)行っている」は「△」で、「数ヶ月に1回」と記載されています。求められる安全管理と現実との乖離が一目瞭然です。この点検表を使って現状を把握し、求められているところに近づいていく努力を不断にすることが大切です。
● 「調剤ミスで男性入院」といった記事を新聞で目にすることがありますが、調剤ミスはよく起こるものでしょうか。
医療はミスがあってはならないというのが前提としてありますが、現実にはヒューマンエラーは起こります。「人間はエラーを犯す」ということを前提にしつつ、それをできるだけなくしていくためには、業務改善をしながら日々安全の文化をつくつて、ミスにつながる行動をなくしていく努力を不断にしていくしか道はありません。
たとえば、ある薬の10ミリグラムと20ミリグラムを取り間違えるという過誤が起きたとします。それがどの段階で起きたかを考えてみると、医師の記載が読みにくくて読み間違える、棚から間違って取る、薬を充填する作業のときに間違える、また、薬剤師が大変疲れていた、など、いろいろな段階、状況の中で発生するわけです。
この間、報道された重篤な過誤例でよくあったのは、アレビアチンというてんかんの薬です。通常は98%の細粒を10倍に薄めて調剤されるのですが、98%のものをそのまま計って出してしまうことがあった。この薬は事故が多いためになくなり、10%のものだけになりました。
この製品のように、製薬メーカーがヒューマンエラーが起こることを前提に製品を作っていない薬もたくさんありますので、薬剤師がメーカーに「危険だから違うものを作れ」と要求していくことも重要です。
● これからどんなことをやっていきたいとお考えですか?
今、健康志向が強い中で漠とした健康不安が広がっています。同時に、ダイエットの健康食品で肝炎を起こして亡くなるケースがあったように、不正確な健康情報が氾濫しています。そうした中で健康の自己責任論、薬の規制緩和が出てきています。薬剤師は調剤をしていればいいという状況ではなく、薬の正しい情報を普及していく社会的役割があるだろうと考えています。
それから、安全性の問題は患者さんの人権問題ですから、人権・倫理問題もやっていきたいと思います。医科法人では整備が進んでいて、患者さんの名前を呼ぶこと自体、プライバシーの保護に抵触すると言われ始めています。調剤薬局では大声で呼んで、ミスが起きないように「何々さんですね」と確認して渡すことになっていますし、オープンカウンターで服薬指導も行っています。プライバシー保護という点では遅れています。
さらに、カルテ開示と同じように、薬歴開示をどう準備していくか。過誤が発生したとき、どれだけ患者さんの人権を貫きながら情報開示をやっていけるか。人権を最優先に考えて自分たちの業務を作っていく、そういう倫理観を絶えず論議しながらやっていくことが重要だと考えています。
前文(略)
1.目的
このマニュアルは、病院薬剤師が適正な調剤を行い、調剤過誤を防止することを目的とする。
2.調剤業務全般に関する基本事項(原則としての考え方である)
3.業務にあたっての心構え(略)
4.調剤各業務段階における基本的な留意事項(略)