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「健康食品」にだまされないで

くらしと健康 連載コラム

藤井基博

眠れぬ森のモゾグーへ
−カフェインのエビデンス−

2001年12月

 もうクリスマスのシーズン。すっかり、朝の布団から体をおこすのがオックウになってきました。それでも、朝ゴハンは食べたいし、昨日読み残した論文も読みきゃいけない。そんな私はカフェインに、相当お世話になっている。朝のコーヒー、職場でのコーヒー、帰りのコーヒー、いったい何杯飲んでいるのだろう。

 はたして、コーヒーは健康によいのだろうか?。
 血圧が上がるといわれ、心配だけれども、上手なつきあい方があるはず・・・。今回は、真面目にコーヒーを調べてみることにした。

 あたらしい医学教科書(アップ トウ デイト 2001年3版)にも、コーヒーはしっかりと記載されている。「カフェインの循環器への効果」と小見出しがついていた。カフェインの正体は、キサンチン誘導体という交感神経(体を活発にする神経)に作用する薬理作用のある物質で、主に精神系と循環器系に効果がある、と書いてある。フムフム。この交感神経を活発にさせる効果が「コーヒーを飲んでと眠れなくなった」精神効果や、「胸がドキドキする」循環器効果につながっているってことか。

 どのくらい飲んだら、作用が発現するのか?、薬剤師なのでやはり知りたい。

 まず、カフェインはドリップコーヒー1杯で146mg、インスタントコーヒー1杯で53mg、コーラはふつうのもダイエットも46mg、3分こしした紅茶で2〜46mgである。

 精神効果は、「不眠」「ゾクゾク感(?)」などが主で、高用量で痙攣との報告もある。これ以上のことは、信頼できるデータとしては不明。臨床的にも調べることに意味がないんだな、きっと。

 循環器の方も論文は少ないものの、ある程度まではわかってきているようだ。1999年に発表された米国の高血圧専門の医学雑誌にはしっかりと分析されている。メタ分析といういくつかの論文をまとめて評価したもので「1日に5杯のコーヒーで、上の血圧(収縮期)が2.4mmHg、下の血圧(拡張期)が1.2mmHg上昇する」ことがわかっているらしい。そして、コーヒーを止めたり、デュカフェ(カフェインなしのコーヒー)にすれば、血圧はもとにもどると、ご親切に書いてある。

 血圧が少し上がるくらいなら、まあ、いいか・・・。血圧があがることで、脳卒中や心血管は、どうなるのだろうか?。1990年に発表された英国の総合医学雑誌には、45,589人を2年間追跡調査し、紅茶もふくめて冠動脈(心臓)疾患とカフェインの因果関係はなかったと報告している。また、2000年に発表された米国の内科雑誌には、30〜59才の20,179人を対象に心筋梗塞や心臓起因の死亡率とカフェインには、関連性はなかったと指摘している。

 論文はここまで。
 コーヒーは結局健康によいのか?。データをまとめれば、「コーヒーを飲むと血圧は上がるけれども、重大な循環器の疾患には、今のところ影響しない」ということ。
 私はもう少し、布団でモゾモゾ起きて、グーっと二度寝してしまうような「モゾグー」の時間(?)を楽しみながら、コーヒーとつき合うことにした。

 <ひとこと>カフェインは血中濃度が20分から60分で最高になる。忙しいビジネスマンは、昼食後にコーヒーを飲んでお昼寝を20分して目覚めると、スッキリするそうです。お昼寝も効率的に・・・。

健康食品になにを求めるの?

2002年2月

 千駄ヶ谷駅から病院まで。足早に歩くと、空気のひとつぶひとつぶの冷たさが感じられる季節になりました。「今日はは、がんばらなくては!」と景気づけようと、コンビニで150円くらいのドリンク剤を買ってしまう。そういえば、今年になってから、2回買っていた。

 これまでわたしがくり返し述べてきたことは、クスリに何を求めるか?、ということです。クスリの場合は、病気を治すという明確な目的がありました。

 受診医療の自己負担が増加し、コンビニでも手軽に健康食品が購入でき、CMで宣伝される。とても高価なものだってたくさんある。健康食品、民間医療、健康グッズ・・・。

 「健康食品に何を求めるか?」という問いをご自身にしてみてください。有名人の宣伝、医学用語を駆使したもっともらしい説明、友人からの勧め。コマーシャル化された環境ので、「わたしは健康食品に何を求めるのか?」という問いをはっきりさせることが、健康食品とのつきあい方を決断する切り札となります。

 健康食品、民間療法に誘われる自分の気持ちはどれでしょう。動機はいろいろあることが、わかります。そして購入するときは、「健康によい」から、決断するわけです。この「健康によい」をもっとはっきりさせることにしましょう。

 このときの判断基準は、次の2つになるはずです。
 A)かならず、科学的根拠が必要である
 B)かならずしも、科学的根拠は必要ない

これは、どういうことかというと
 A)効果が客観的データで測定できる
 B)効いたかどうかは、自分の満足度で判断する、データははかれないこともある、または必要がない

つまり、
 A)は明らかな病気の治療です。病院での医療、薬局で自分で風邪クスリを買うなど明確な治療、体を変えていく目的がある場合です。B)は、リラックスのため、購入すること自体が満足、癒やし、などのキモチが大切な場合です。

 さて、最初に例をあげた「やせたい、○○○病を治したい、健康になりたい」は客観的データが必要となります。「健康になりたい、より栄養のよいものをとりたい」は、健康とは何か、栄養とは何かをはっきりさせ、実行するには客観的データが参考になります。「健康といわれていることをして満足したい」これは、どちらかというと自己の満足を満たすためですね。どちらの側か、決めにくいこともあります。でも、どちらかに偏るはずです。

 キモチが満たされればOKであれば、健康食品に問題はないと思います。しかし、体を変えたい、つまり客観的なデータがどうしても必要なのに、そこが検証されずに大枚をはたいて、おまけに補償されない健康被害をうける状況にはひとこといいたい、と思います。



 「自分が健康食品に何を求めるのか?」これを合い言葉に、一度ご自身の生活を振り返ってみてください。

友人、家族も自分も大切に・・・
(健康食品や民間療法の問題点)

2002年3月

 前回の復習をします。「健康食品に自分が何を求めるのか?」はっきりさせることが超重要です、という提起をしました。また、その効果は客観的評価で測定される必要があると説明しました。

 さて、健康食品とのつきあい方の本題に入る前に、いったいわたしはこの健康食品や民間療法について問題意識をもっているのか、述べさせてもらいたいと思います。

 まず、経済的問題。残念ながら、国内での被害総額がまとめられた資料はありませんでした。米国の研究所のデータは、民間療法に支払われた額が年間212億ドルにのぼることを示しています。98年3月にダイエット健康食品会社の総売上は30億、ガンに効く健康飲料が120億、インチキ医療器具の売り上げが30億円。これらは摘発された一部にしか過ぎず、わたしは関係ないと思っていても、どこかでムダ銭を叩いているかも知れないのです。ですから、これから健康食品、民間療法を選ぶ方は、自分がどのくらい予算をかけるつもりなのか、はっきりさせて見合う効果を考慮する必要があります。

 2番目は直接的な健康被害の問題。自然だから、天然だから、の宣伝文句。だから、被害なく安全ではありません。プロポリス、アトピーの民間療法、命が危険になるケースもあります。医薬品はきちんとした臨床試験をしているから、副作用が○○%と報告され、わたしたち薬剤師も説明ができます。しかし、健康食品は副作用の報告義務がなく、評価ができていないものが大半です。成分には、精神系作用があったり、漢方薬なのに化学合成された血糖を下げる成分が入っているものもあります。民間療法では、極端な食事制限を課して、栄養障害(マクロビオティック療法によるビタミンB12不足)になったり、民間療法で頸椎牽引療法をし、脊髄の損傷をおこした報告もあります。

 3番目は、民間療法を選択してしまい、正当な医療を受ける機会を逃してしまうとい間接的な問題です。英国の医学雑誌には、正当な治療を拒否し、民間療法に頼ったばかりに治療が遅れてしまった悪性リンパ腫の子供の例が報告されています。民間療法の施術者のなかには、病気の診断までおこなう人がいます。健康食品や民間療法がガンに効くなどと宣伝されていても、まず医療機関で医療を受けることを考えて下さい。その上で、主治医に相談するべきだでしょう。

 最後に、これらの健康食品、民間療法が、「インチキ」とわかったときの患者さんご本人、ご家族の心理的ダメージ。治癒したらなばともかく、治癒せずに経済的な問題も発生します。また、自分はよく効いたから、勧めた友人は、どうでしょう。
 友人も、家族も、そして自分のことも大切にするために、しばらくこの問題におつきあい下さい。

妖しい、怪しい健康ことば

2002年4月

 名は体をあらわす、といいます。中国の白楽天はまさしくその名のとおり、自分の境遇に安んじてあくせくせず、楽天的に生きました。春という季節は、つい肩をはってしまう。陽気といっしょにわたしも「ほどほど」な春を過ごしたい。

 さて前回は、健康食品・民間療法はなぜ危険か、整理をしました。今回はだまされないためのあやしい言葉をいくつか紹介します。

● 新陳代謝を活発にする

 体や細胞の古い物質をこわし、それに変わる物質を新しくつくるというイメージでしょうか。現代の治療では解明はされていないし、一民間企業が科学的に証明することはきわめてむずかしいことです。簡単なことではありません。

● 体質を改善する

 医療機関で、体質を改善するという医療計画をたてることはあまりありません。確かに「アレルギー体質」などということもありますから、説明をするなら「体の状態を規定する遺伝的背景」でしょうか。遺伝的に太りやすい、痩せやすいということを簡単に変えることはできません。

● 脂肪を燃やす

 脂肪細胞中の中性脂肪が脂肪酸とグリセロールに分解されること。しばしば、エステの宣伝に使われる言葉ですが、もんでもたたいてもこのような変化はおこりません。

● 医学博士

 よく混同される医師と医学博士。医師の資格がなくても医学博士号は取得できます。

● 天然・自然

 天然・自然なら、安全で安心。化学合成されたものは、危険。はたしてそうでしょうか。天然、自然でも毒性の高いものはたくさんあります。化学合成された医薬品にも、副作用があります。つまり、自然のものであれ、合成されたものであれ、個々の物質が安全であるかどうか、安全に使えるか、それぞれを見極めればよいということなのです。天然・自然が100%安全ではありません。

● 専門家の報道

 専門家の意見のよいことと、悪いこと、わからないことの3つ知ることが重要です。よいこと、悪いことばかりが編集された報道なら、ダメです。

 まだまだありますが、紙面の都合上ここまで。困ってしまうくらいのあやしい言葉たち。このあやしい言葉が使われていたら、要注意ですよ。名は体をあらわすのです。

裏ワザにご注意

2002年5月

 裏ワザは、ときに神髄である。裏ワザは、裏のワザだから、それだけでキライな方も多いし、何か不具合があったときには保障もされない。でも、数々の裏ワザをみると、それがほんとうの使い方なのでは、と思ってしまうこともあり、侮れない。

 医療の分野でも、アスピリンを低用量で服用すると血栓の予防になることは前から知られていた。しかし、当時は保険適応では認められておらず、裏ワザとされていた。これは、少なくとも5つの大規模な臨床試験で効果が確認されており、正しい裏ワザであったといえる。ほかにも、正しい治療の裏ワザは、たくさんある。

 では、健康食品・民間医療は、どうか。どうもこちらは、ワザとはいえない裏ワザが多いようだ。米国のFDA(食品医薬品局)では、1988年からだまされないための方法をホームページに公開しており、今回はこのマニュアルの一部をご紹介する。

● いんちき医療(英語でQuackery)とは?

 いんちき医療とは、虚偽の効能をうたった医薬品や化粧品、補助食品、偽物医療器具の3つをさします。こうしたものを売る人の目的は、あなたの健康を守ったり、回復させたりすることではなく、あなたのお金をまきあげることなのです。
(お金をまきあげるとハッキリいっています)

● 薬のようなモノ

 最もひどく危険なことは、効果が立証されていない癌の治療法です。それは患者から生命を救うこと、つまり効果的な医療を受けられるはずの貴重な時間を奪い取ってしまいます。

● ブームに便乗した食品

 現代では、食事をきちんととっている限り、栄養不足による欠乏症の危険性はありません。ビタミン、ミネラル、またはその他の補助食品の摂取が必要な欠乏症であるか否かは慎重かつ充分な診断をしてはじめてわかるものです。
(日本でも補助食品は大ブームになってしまっていますね)

● 体重の減量

 ただつまみを回したり、光を当てたりするだけで、診断や治療ができるような機械はありません。体重は、特別な衣類やバイブレーションによって減らせるものではありません。体重を減らす「医薬品」は体内の脂肪を「溶け出させる」ことなどできません。不眠、吐き気などの副作用が頻発します。全身をラップでつつんで発汗させる方法は、脱水や循環器に負担をかけます。

 では、いんちきの見分け方は、というと。商品の説明に治癒したという人々の感謝の手紙が使用されているなど、それとわかる特徴があります。次の項目のいずれかに該当するものは、いんちきとみてまず間違いないでしょう。

  1. 製品やサービスが、他では得られない「驚異の治療」「最新の発見」にもとづくものと宣伝されている。
  2. ひとつの製品なのに、あらゆる疾患に効くような宣伝をしている。
  3. 販売員が、科学的な根拠を調査しているわけではない。市場をみて、利益を得るために販売しているだけである。
  4. 返金のような補償はされないことがある。

 いかがでしたか。

 ちなみに、マニュアルの最後には「あまりに聞こえのよい話は、おそらく真実ではない」と警告をしています。

資料出典: FDA/CFSAN How do you recognize quackery? http://www.cfsan.fda.gov/~dms/qa-qak3.html

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