薬害ヤコブ病問題のページへ

薬事法改正問題と薬害根絶のあり方

藤竿伊知郎(新薬学研究者技術者集団前代表)

◆ 今提案されている改革案の基本

・ 「製造承認」を「販売承認」へ
・ 「医療用具」→「医療機器」
・ メリハリをつけた審査
・ 生物由来製品に総合的な安全対策
・ 「独立行政法人」と厚労省の2つで審査を分担し、承認審査を迅速化する
・ 「処方せん薬」と「一般用医薬品」の2つに
・ 1979年の薬事2法 以来の大改定

◆ なぜ、ヒト乾燥硬膜は医薬品でなかったのか

・ 脱脂綿、ガーゼは医薬品
・ 医療用具とするのは、なぜ
・ 「医療機器」とすれば、器具機械の面がいっそう強まる
・ 工学的安全性、生理的安全性と生物学的専門性はちがう

◆ 薬事法とは

第1条 この法律は、医薬品、医薬部外品、化粧品及び医療用具の品質、有効性及び安全性の確保のために必要な規制を行うとともに、医療上特にその必要性が高い医薬品及び医療用具の研究開発の促進のために必要な措置を講ずることにより、保健衛生の向上を図ることを目的とする。

目的の追加

品質保証 + 安全性確保 + 有効性の保証 + 新薬の開発

◆ 医薬品とは

  1. 日本薬局方に収められている物
  2. 人又は動物の疾病の診断、治療又は予防に使用されることが目的とされている物であつて、器具器械でないもの
  3. 人又は動物の身体の構造又は機能に影響を及ぼすことが目的とされている物であつて、器具器械でないもの

◆ 回収命令は、重要な局面でなぜ使われない

・ まず、「自主回収」を指導
・ 企業の「損害」に対する過剰な配慮
・ 起こりうる重大事態の想定は?
・ 新しい事態にはマニュアルは通用しない
・ 決断は誰が? トップの政治判断が必要
・ 省内の技術者の意見を十分に生かせ

◆ 国の責務は

・ 第一義的責任は、企業にある
・ しかし、承認時点で共同責任がある
・ 監督責任は免れない
・ 他の政府やWHOのとった規制処置との整合性
・ 収集した情報の公開が重要

◆ 薬務行政の外部化の問題

・ 医薬品機構の利用は、メリットもあるが行政責任が十分とれるのか
・ 産業振興と安全性の審査が同一の組織
・ 治験指導と信頼性調査、別の人(部)が行うにしても問題
・ 「医薬品副作用被害救済・研究振興調査機構」は、分割すべき

◆ 監視機関の役割

・ 行政監察だけに任せておけない
・ 他の分野でもオンブズマン活動で問題点が明らかになってきている
・ 市民が参加する安全性監視機構・審議会が必要
・ 公開される情報の評価。専門性が必要

◆ 行政処分を決めるときの透明性

・ 迅速さと公平性
・ 専門家の意見を求める、市民の意見を求める、当事者のヒアリング
・ 判断過程を検証できる議事録
・ 行政の裁量に任せるのみでは不透明

◆ 技術的判断は難しい

・ 常に技術の進歩がある
・ 少数例の危険性情報をどう評価するか
・ 複数のルートからの情報を総合できる国の役割は重大
・ 行政判断はカケ
・ 科学的に証明が十分でない時点での予防的処置こそ国の役割

◆ 組織としての救済責任

・ 被害者の救済: 無過失責任制度を
・ 医薬品副作用被害救済制度を拡充
・ 救済責任は、発売時点までさかのぼる
・ 危険性が科学的に証明されなくても救済責任をとる

◆ 責任者の刑事責任

・ 真相の解明と再発予防に生かすため、直接関係する者の証言に免責を
・ 内部告発者の保護
・ 大臣・次官・局長、企業の役員への対応は厳罰に

◆ 医療機関の果たす役割

・ 発生した健康被害を報告する責任
・ 公開された情報で、最善の治療法を選ぶ責任
・ 副作用報告は義務づけにすべきでは
・ 経済的バイアスの排除

◆ 情報収集と経済的保障は

・ 副作用モニター・記帳義務のコストを誰が負担するのか
・ 経済保障がない業務は続かない
・ 診療報酬では患者負担が発生する
・ 販売金額に応じて拠出した金を、医薬品機構が給付しては
・ 企業には、PL保険と回収命令に備える保険加入の義務づけを

◆ 企業に対する行政命令の免責と経済的配慮

・ 国家賠償を恐れて、裁量権に基づく「行政指導」が不透明さを生む
・ 積極的な行政判断による企業の損害は、国家賠償の対象としないように
・ 回収命令による企業の損害は保険で

◆ 真に有効な「薬事制度改革」を

・ 実行されない制度は、かえって有害
・ 本音と建て前がある世界では、モラルが低下する
・ 組織の論理をうち破る、市民レベルでの監視

終わりに

 「薬事法・薬剤師法の手引き」の序文を紹介する。

 医療は、生命の尊重と個人の尊厳の保持を旨とするものである。近年の科学技術の進歩はめざましく、医療においても、遺伝子治療、ゲノム創薬、クローン技術の医薬品製造への応用など革新的な技術の導入が相次いだ。そうした技術革新に応じた法的環境も整備されつつある。しかし冒頭に述べた医療法の精神である生命の尊重と個人の尊厳という壮大なテーマは、法的環境の整備だけでは達成しえない。法とはつまり人間の手により作成されたものであり、その人間により遵守されるものである。たとえ素晴らしき法律が整備されても、正しく運用されなければ、ワイマール憲法のような悪夢をもたらしかねないのである。
 ときに生命倫理を脅かすのではないかと思われる勢いさえもある昨今の医療技術の急速な進展に対し、薬事法・薬剤師法は、医薬品等の安全性、有効性、品質の維持、適正な使用について国民の健康を護る法規であるといえる。

平成13年度版 薬事法・薬剤師法の手引き、(財)日本公定書協会監修、じほう(2001)

薬害ヤコブ病問題のページへ