実行委員長 牧野 忠康
(日本福祉大学社会福祉学部長)
「20世紀のうちに解決を」で始められましたが、5年余に及んだ大津と東京の地裁における民事訴訟は、裁判長による歴史的・画期的な「和解勧告」により、原告の主張と要求を実現できる可能性が高い大詰めにあります。しかし、国は1987年以前の責任を明確には認めていないこと、謝罪をしていないこと、問題発生の真相を明らかにしていないこと、被害者の全面救済と生活支援の方策を示していないこと、生物由来感染を含む薬害根絶の方策を明らかにしていないこと、など手を抜けない「詰め」の問題や課題が残っています。
最近では、BSEをめぐる雪印食品の事件をはじめ、安全を保障するはずの食品表示ラベル(JAS)の虚偽表示事件や、外務省をはじめ官僚や知事・市長など利権をめぐる「政・官・業」の癒着構造が続々と噴出してくるなど、薬害エイズ事件や薬害ヤコブ病事件で問題としてきた「構造的薬害問題」と、根は同じ問題が蔓延している状況です。正に「聖域なき構造改革」はここにこそ痛みを伴うメスを入れるべきだと思います。
このような時期に、多くの皆さんの熱意と協力で緊急シンポを開催することができることは、原告の皆さんを激励するとともに、自らのいのちと健康と生活を衛(まもる)ために何を知り、何を考え、何をすべきかを提起することの意義は大きいと考えています。
今回のシンポジウムの課題には、二つの大きな柱があります。
第一の課題は、薬害ヤコブ病被害者支援・救済のあり方を提起することです。
とくにできる限り早い時期に立ち上げることを前提に準備している「CJDサポ−ト・ネットワ−ク」の課題について提起し、当事者を先頭に専門家・研究者および支援者が協力・共同して実現を勝ち取りたいと考えています。
また、ヒト乾燥硬膜の膨大な使用量から考えて潜在的な被害者が多数存在するものと推定されており、その掘り起こしのための「調査」の実施が必要です。国の責任で医療機関を通しての調査を行うことが必要です。その医療機関での調査の経験と救済のあり方についてプレゼンテ−ションを受けて、共に考えたいと思います。
第二の課題は、薬害根絶を果たす薬事法「改正」の問題と、生物由来製品による感染の防止対策の問題と被害者救済制度のあり方を検討することです。
今国会で「薬事法」が改正される予定ですが、薬事法の何が「改正」されようとしているのか、それは私たちの願いである薬害根絶を実現するものとなっているのか、そして人災としての薬害の発生を根絶し、より安全な薬が使用できるようにするためにはどのような「薬事法」であるべきなのかを提起し、ともに課題を考えたいと思います。
「ヒト乾燥硬膜」もそうでしたが、科学・技術の発展の下で生物由来の医療品や薬品の使用が増えるものと予想されます。原材料が生物であるだけに、こうした製品の使用による感染被害の発生が心配されます。この問題に対して、どのような予防対策や被害救済制度の整備が必要なのかについてプレゼンテ−ションを受けて、何を実現させなくてはならないのかを共に考えたいと思います。
この「緊急シンポジウム」が、薬害ヤコブ病裁判の全面勝利への支援と被害者の生活支援システムの確立、そして何よりも人災としての構造的薬害の根絶を勝ち取るエネルギ−となることを強く望みます。人災は、必ず人間の英知と行動で予防できるものです。
なお、私たちはこれまでに、1999年10月3日に「薬害ヤコブ病問題シンポジウム」(会場:東京医科歯科大学)、2001年6月17日に「薬害ヤコブ病問題2001シンポジウム」(会場:東洋大学)、2001年11月11日に「薬害ヤコブ病問題2001国際シンポジウム」(会場:一橋大学)を開催し、それぞれに適切な時期に的確な問題提起をしてきました。