わかばだより

No.70:ピロリ菌について

2013年7月 わかば薬局発行

我が国では胃がんの発生率が高く、その原因として有名なのがピロリ菌です。
近年、ピロリ菌の除菌により新たな胃がんや潰瘍の発生頻度を大きく下げることが報告されています。
将来の自分や家族の病気の予防のためにも、ピロリ菌のことについて知っておきましょう。

ピロリ菌ってなに??

日本人の2人に1人は胃の中にピロリ菌が住んでいます。
この菌は我々の胃にさまざまなトラブルを引き起こします。
大半は感染していても症状は起きないのですが、胃粘膜を傷つけて炎症を起こし、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃がんなどを引き起こすことがあります。
胃・十二指腸潰瘍の主な原因はピロリ菌、NSAIDs(非ステロイド性消炎鎮痛薬)、ストレスの3つといわれていて、その中でもピロリ菌の感染によるものが一番多く、これを除菌することによって改善や再発の防止ができます。
胃や十二指腸潰瘍の経験のある方や、再発をくりかえす方はピロリ菌に感染しているかもしれません。
ここのところずっと胃の具合が良くない、薬を飲んでもすぐに胃の調子が悪くなるなどの症状がある方は、ご自身の健康のためにもぜひ一度ピロリ菌の検査、または医師の相談を受けてみてください。

こんな人は要注意!

  • 胃潰瘍や十二指腸潰瘍、胃炎と診断されたことがある。
  • 空腹時や疲れている時に吐き気が起こることがある。
  • 胃の不快感を感じ始めてから半年以上続いている。
  • 薬を飲んでも一時的にしか回復せず、胃の不快感が再発する。
  • 1970年より以前に生まれている。(上下水道が整備される前)
  • 衛生環境の悪いところに住んでいたことがある。
  • 家族にピロリ菌の感染者がいる。

ピロリ菌の検査

ピロリ菌の検査について簡単に説明します。
ピロリ菌感染を調べる検査には、内視鏡(胃カメラ)を使う検査と使わない検査があります。
内視鏡を使う検査方法は、測定に時間がかかり、胃カメラを飲まないといけないが、胃の組織の情報(炎症や萎縮の程度など)が得られるという特徴があります。
内視鏡を使わない検査方法は、胃カメラを飲まずに済み、検査も測定も短時間で簡単にできるという特徴があります。

一般的には尿素呼気試験法が簡単で精度も高いと言われていてよく用いられていますが、おとなりの東葛病院では、培養法と抗原法を採用しています。

培養法は胃カメラで胃炎や潰瘍などの病気があるかどうかを直接観察して調べると同時に、胃の粘膜を少し採取してピロリ菌の育ちやすい環境下で5~7日間培養してピロリ菌がいるかどうかを調べます。
この方法は検査法の中で唯一ピロリ菌を直接証明することができる方法と言われています。

抗原法は検便を用いて、便中にピロリ菌がいるかどうかを調べます。
精度が高く、呼気試験が困難な小児にも向いた検査法であると言われています。

内視鏡を使う検査 内視鏡を使わない検査
培養法
胃の粘膜を採取して、ピロリ菌の育ちやすい環境下で5~7日間培養して判定します。
抗原法
糞便中からピロリ菌の抗原があるか調べます。
迅速ウレアーゼ法
胃の粘膜を採取して、それを特殊な反応液に入れて反応液の色の変化でピロリ菌の有無を判定します。
尿素呼気試験法
検査薬を内服し、服用前後の呼気を集めて、ピロリ菌によって作られる二酸化炭素の量を比べます。
鏡検法
胃の粘膜を採取して染色し、顕微鏡でピロリ菌を探します。
抗体法
血液や尿を採取して、ピロリ菌に対する抗体ができているか調べます。

ピロリ菌の除菌方法は?

ピロリ菌除菌=プロトンポンプ阻害剤(1種類)+抗生物質(2種類)を1日2回7日間

プロトンポンプ阻害剤
胃酸の分泌を抑える薬です。胃酸の分泌を抑えることで抗生物質の効果を高めます。
抗生物質
菌を殺す薬です。

薬の種類 薬の名前 1日に飲む数 用法
1次除菌 プロトンポンプ阻害剤 ランソプラゾール
またはオメプラゾール
2錠 朝・夕食後
7日分
抗生物質 クラリスロマイシン 2~4錠
パセトシン 6カプセル
2次除菌 プロトンポンプ阻害剤 ランソプラゾール
またはオメプラゾール
2錠 朝・夕食後
7日分
抗生物質 フラジール 2錠
パセトシン 6カプセル

薬を飲み終わったら4週間以降にもう一度ピロリ菌がいるかどうかの検査をして、ピロリ菌がもういなくなっていれば除菌成功となります。
わが国でのこの方法による除菌の成功率は正しく薬を服用した場合に約80%で、除菌に成功するとピロリ菌の再感染率は年に1)2%ほどになります。
もし除菌に失敗してしまっても、クラリスロマイシンをフラジールに変えて再度除菌を行うことが出来ます

除菌の注意点

・薬を毎日きちんと飲む
ピロリ菌を除菌する薬は毎日しっかり飲むことで効果のある薬です。飲み忘れたり、中途半端に飲むのをやめてしまったりすると菌に薬が効かなくなって除菌の成功率が下がってしまいます。

・アレルギーを持っている方
除菌に使用する抗生物質はペニシリン系とマクロライド系のものです。過去にこれらの薬でアレルギー症状が出たことのある方は、治療前に主治医とよく相談してください。

・薬を飲んで気になる症状が現れたら
すぐに医師に知らせて欲しい症状…発疹、蕁麻疹、息苦しさ など
アレルギー症状の可能性があるので、できるだけ早く受診してください。

様子を見て欲しい症状…軟便、下痢、味覚障害、口内炎、吐き気、頭痛、めまい など
症状がひどい場合は主治医もしくは薬剤師に相談してください。症状が軽い場合はそのまま服用し続けることもあります。

保険適用が変わりました!

今まで保険が適用されなかったピロリ菌の感染による胃炎にも、今年の2月から保険が適用されるようになりました。ただし、保険が適用されるには次の2つの条件があります。


  1. ピロリ菌検査でピロリ菌に感染していると判定されること
  2. 胃内視鏡検査(胃カメラ検査)で慢性胃炎と診断されること

これによって保険が適用されるピロリ菌感染による疾患が

  • 胃炎 ←New!!
  • 胃潰瘍・十二指腸潰瘍
  • 胃MALTリンパ腫
  • 特発性血小板減少性紫斑病(ITP)
  • 早期胃癌に対する内視鏡的治療後

の5つとなりました。

参考文献

  1. H.pylori感染の診断と治療のガイドライン2009改訂版
  2. 村川裕二、矢久保修嗣、『新・病態生理できった内科学 8 消化器疾患』、医学教育出版社、2011年8月
  3. 日本医療薬学会、『病態を理解して組み立てる 薬剤師のための疾患別薬物療法Ⅱ.精神・脳神経系疾患/消化器疾患』、南江堂、2011年4月
  4. 青木眞、『レジデントのための感染症診療マニュアル 第2版』、医学書院、2009年2月
  5. Medical Practice編集委員会、『新版感染症診療実践ガイド 有効な抗菌薬の使いかたのすべて』、文光堂、2011年4月 他 明治薬科大学 佐藤絵里  帝京平成大学 安本正法

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