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サプリメントを考える 4

くらしと健康 連載コラム

藤竿伊知郎 (薬剤師・外苑企画商事 薬剤情報室)

(16) 天然物信仰がつくる、にがりブーム

2004年6月

 最近、急速に注目を集めているのが「にがり」です。2002年頃から、インターネット上で健康食品としての使い方がひろまり、2003年には出版物やテレビ番組での紹介もあって、生産量が10倍以上になりました。

 にがりは、海水を濃縮して食塩をとった後に残る液体で、豆腐の凝固剤として古くから利用されています。製法により塩類の濃度は変わりますが、塩化マグネシウムが2割、カリウム・ナトリウム・カルシウムの塩化物がそれぞれ数パーセントです。リン・鉄・亜鉛・マンガンなどの多種類のミネラルを含んでいますが、含量はほんのわずかです。

 内服により便通の改善、ダイエット、花粉症などアレルギー症状の軽減、外用では、美肌効果が、宣伝の中でうたわれています。

 水に数滴落とすだけで、手軽にミネラルウオーターを作れると紹介しているものもあります。飲みやすいように薄めた「にがり水」として飲みやすくした製品もあります。

 マグネシウムは、塩類下剤として、腸内の水分量を増やして便秘の治療に用いられています。緩下剤として、酸化マグネシウムは1日2g程度を内服します。

 下剤の効果から考えると、「にがり」の服用量は少ないものです。これで効果があるのであれば、歓迎すべきことですが、気持ちの問題とも考えられます。

 マグネシウムは1日300mg程度が食品から摂取されています。そこへ少量のマグネシウムを追加しても、十分な役割を果たすとは考えられません。また、体内では、カルシウムとのバランスの上で生理的役割を果たしています。ミネラルの補給として「にがり」を用いるのは適切でないでしょう。

 肥満防止効果は、体内でのエネルギー生成過程でマグネシウムが酵素の補助として役立っていることからでているようです。体験談以外にきちんと比較検討したデータはみられません。実証されていない効果を盛んに宣伝していることには注意が必要です。

(17) ガンを治すという「サメ軟骨」には要注意

2004年7月

 薬事法で効能をうたってはいけない商品なのに、本やインターネットのホームページで、「ガンが治る」などと宣伝する「バイブル商法」が問題となっています。最近、厚労省が出版社に改善指導をおこなっています。キノコ類と並んでサメ軟骨が代表的な問題商品です。

 サメ軟骨エキスは、1990年代の初めから、ガンを治すことをうたって売り出された、新しい商品です。最近では、法の規制を逃れるように、エキス中に多く含まれるコンドロイチンによる関節症の痛み緩和を表向きの効能としているものもあります。

 薬の原材料となる物質を探す研究は、陸上の生物から海洋生物へと広がりました。その中で、サメ軟骨から抗ガン作用を持つ物質が見つかり、アメリカで臨床試験まで進みました。ただし、その作用は弱く、肺ガンでの治験は続いていますが、腎ガンについては生存期間延長が認められず、2003年12月に開発中止になっています。それ以外のガンについては、臨床治験をする段階までも、開発は進みませんでした。

 サプリメントとして発売されているエキス類は、食品であるため、抗ガン作用を持つ物質をどれだけ含んでいるかを明らかにしていません。サメにはガンが無い、4億年前から生きている「生命力」など、神秘性をうたったイメージを前面に出して売っています。

 販売会社が関係する研究会のホームページをみると「血管新生」抑制の医学情報がいっぱいです。科学的装いを凝らしていますが、正確な記述は基礎医学情報に関してのみで、サメ軟骨に関係する部分は憶測でしかありません。サメ軟骨を人間の患者につかって試験した情報は掲載されていません。これまた、使用者の体験談が紹介されているだけです。

 関節の痛みにコンドロイチンを摂取するためには、サメ軟骨エキスよりも、もっと安くて品質が信頼できる大衆薬を利用すべきです。このような、高価で怪しい商品に手を出すのは止めるべきでしょう。

(18) 「ウコン」は二日酔い予防に効くのか

2004年8月

 お酒が好きな方には、ウコンが人気をよんでいます。肝臓の機能を強めると宣伝されているためです。

 ウコンは、高温多湿の土地を好む、ショウガ科の多年草の根です。粉末や錠剤・お茶の形で販売されています。健康ブームにのって、沖縄県では地域おこしの目玉となりました。
 ウコンは、古くから民間薬として健胃・利胆剤として用いられてきました。それにもまして、カレー粉の黄色い香辛料「ターメリック」として、日本人にとっては身近な食品です。
 ウコンには、たくさんの品種がありますが、主に利用されるのは2種類です。秋に花の咲く「秋ウコン」は、利胆作用をもつ「クルクミン」を含んでいます。この作用は、脂肪の消化をになう胆汁を肝臓から分泌させるものです。ただし、肝臓の解毒作用を強めることは、まだ実証されていません。

一方、春に花を咲かせる「春ウコン」は、クルクミンを含まず、健胃作用をもつ精油を多く含んでいます。中国では春ウコンを、沖縄では秋ウコンを薬用として用いてきました。いま注目のものは、秋ウコンと考えてください。
 香辛料としては長い歴史をもっていますが、サプリメントとしての利用が広まったのは1990年代中頃からのことです。最近になって基礎研究が進み、クルクミンの抗酸化作用が確かめられています。しかし、理論的可能性だけから抗ガン作用をうたう、宣伝が見うけられることには問題があります。

 ウコンの利用にあたっては、どの成分が役にたつのか、どのような使い方が適切なのか、これからの研究が待たれます。精製されたクルクミンの安全性は高いものです。しかし、ダイエット目的でウコン・サプリメント使用した人で、肝障害を起こしたとの報告があります。
 消化器に負担をかけ、肝臓が気になったときには、ウコンを試してみてもよいと思います。けれども、毎日必要になるような生活はやめましょうね。

(19)やせる目的には経済的でない「カテキン」

2004年9月

 カテキンをたくさん含んだ緑茶飲料が、「体脂肪が気になる方に」評判です。昨年春に、特定保健用食品(トクホ)として厚労省の表示許可を受けた健康茶が発売されて、大きなブームとなりました。トクホの許可を受けてない飲料水や、粉末・粒などの形をしたサプリメントも販売されています。

 カテキンは、緑茶の渋み成分で、苦い味をもっているものです。カテキンはポリフェノールの一種で、その誘導体も含めてカテキンと総称されています。また、タンニン類ともよばれます。
 カテキンは、ビタミンCと並ぶ高い抗酸化作用をもっています。しかし、環境によっては脂肪の酸化代謝を促進したり、酸化作用によって抗菌作用を示すなど、酸化に関する作用は両面性をもっています。

 体重減少につながるのは、脂肪の代謝がふえて熱として消費するためです。しかし、その量はわずかで、煎茶10杯分に相当するカテキンを含む健康茶340mlを1本飲んで、メーカーの資料をみても、約100Kcalにすぎません。マヨネーズ大さじ1.3杯(20g)分のカロリー消費です。
 疫学調査で、茶の産地である静岡県ではガンの発生が少ないこと、試験管内で、発ガン抑制作用が確認されていることから、ガンの予防が期待されています。しかし、高濃度ではDNAの損傷を引き起こすこともあり、使いすぎは問題がありそうです。
 緑茶が利用されてきた歴史からみても、普通に使う限り、カテキンの安全性は高いといえます。今までとったことがない高濃度のものを、長期にとり続けた場合の安全性については、これから検討が必要です。

 カテキンの効用は、精力的に研究が進められていますが、抗酸化作用とガン予防に関する情報の氾濫には注意が必要です。
 煎茶にはカテキン以外の有用な成分がたくさん含まれています。そこで、1日10杯とるようにすれば、わざわざサプリメントを買う必要性はないでしょう。やせる目的には、カロリーの消費を増やすよりも、高カロリーの脂肪類などの食品摂取を控えるのが本来の道でしょう。

(20)「グルコサミン」で関節痛が和らぐか

2004年10月

 膝の痛みなど、変形性関節症の症状改善に役立つサプリメントとして、グルコサミンは売られています。アメリカでは、1997年に関節症の治療に関する本が出てブームとなりました。日本では、その影響を受けて知られるようになった新しいサプリメントです。ヨーロッパでは医薬品として使われている国がありますが、アメリカと日本では食品としてあつかわれています。

 グルコサミンはブドウ糖にアミノ基がついた単純な構造を持ち、カニやエビの殻を加水分解して製造されます。
 関節の骨と骨とが接する部分で、クッションとなる軟骨が減った状態に対して、グルコサミンは軟骨再生の原料として使われます。同じ原料として使われる、コンドロイチン硫酸を一緒に入れた製品が多くみられます。
 海外の臨床試験データでは、骨関節炎に対して複数の無作為化比較試験で有効性が示されています。ただし、重篤で長期にわたる関節炎には効果が見られません。
 本来、自分の体内で十分な量を合成できるものですが、老化により合成能力が落ちた患者さんには、グルコサミンを飲んで補充する効果があります。若者では、長期の服用で自然な軟骨再生力を弱めるというデータもあります。
 単純な物質であり、生体内に元々あるものなので、副作用は少ないようです。ただし、硫酸グルコサミンとしてとる場合は安全性は高いけれど、塩酸グルコサミンでは長期に服用した場合のデータはないので、成分表示に注意しましょう。

 日本では、品質を保証された試験データはなく、服用量・服用方法などの基準はありません。また、製品ごとの品質の違いを確かめる方法もありません。
 関節痛がある中年以降の方は、信頼が置けるメーカーの製品を試してみてもよいでしょう。2ヶ月ほど使って痛みの軽減が見られないようでしたら、関節痛の原因が軟骨再生力の低下ではない可能性があるので、整形外科の診察を受けるようにしましょう。

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