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サプリメントを考える 1

くらしと健康 連載コラム

藤竿伊知郎 (薬剤師・外苑企画商事 薬剤情報室)

(1) 賢い消費者になろう

2003年2月

 最近、マスコミでは「サプリメント」の宣伝が盛んにおこなわれています。コマーシャルのスタイルでなくTV番組の中で推奨している場合も見られます。消費生協のカタログにもビタミンなど、たくさんの商品が載る時代です。

 「労働がきつくて疲労が抜けない」、「食生活が乱れがち」。ストレスの多い世の中で、みなさんもこのような悩みと無縁でないと思います。また、「スマートな体形を維持したい」、「きれいになりたい」という望み、多くの方が持っています。この悩みを解決するものとしてサプリメントに対する期待は大きなものとなっています。

 食品のように手軽で、医薬品のように効果があるものとして「健康食品」は、市場を拡大してきました。最近の流行は、アメリカのブームの影響を受けています。英語の「ダイエタリー・サプリメント」を略した「サプリメント」という言葉が日本でもてはやされています。

 医療費の自己負担が増える中で、セルフメディケーションは成長分野として、各企業が注目しています。

 多くの方は、医療にかかりながらもサプリメントを併用しています。ただし、医師や薬剤師にそのことを伝えている方は少ないものです。治療には直接関係がないと思っておられることと思います。

 高いお金を払ったにもかかわらず、効果を上げないマヤカシの商品もあります。古くから売られているから、大手企業が販売しているからということだけでは信用できません。

 医薬品との飲みあわせが問題となっているものもあります。また、昨年7月、中国製健康食品で4名の死者を含む健康被害が出たことを覚えておられるでしょうか。安全性にも注意が必要です。

 忙しい世の中で、次々と新しい情報が押し寄せてきます。みなさんが賢い消費者となって、自分のいのちと健康を守っていけるように、このサプリメント関連の商品についていっしょに考えていきたいと思います。

(2) 「健康食品」に忍び込む医薬品

2003年3月

 今回は、ダイエット用健康食品のことを見ていきましょう。カプセル型の健康食品を飲むだけで簡単にやせられるという宣伝は魅力的で、隠れた利用者がたくさんいます。薬の副作用で体重が増えることを気にして飲まれている方がいました。また、糖尿病の食事制限が緩和できないかといろいろ試してみられる方もいます。

 外国製の商品の中には日本では使用できない医薬品を混ぜているものがあります。日本国内では販売できない成分を含んでいても、個人輸入であれば利用は可能です。インターネットを利用しての輸入代行業者もたくさんあります。また、法律に違反していることを知らずに、販売している小売店や訪問販売もあります

 昨年7月12日厚労省が発表した中国製健康食品による健康被害の報告は、その後多くの反響を呼びました。昨年暮れまでに全国からよせられた被害報告は865名、重い肝機能障害などで死亡した方は4名に上っています。

 中国製ということで、漢方薬の安全なイメージをまとって販売されていたものですが、「食欲抑制薬」や「甲状腺ホルモン」といった危険な成分を含んでいたのです。

 化学薬品が問題となるだけではありません。植物由来の成分であっても強い成分を含むものは医薬品として取り扱われます。国による規制の違いで日本では問題になるような商品が入り込んできています。

 昨年10月には、米国製の健康食品に「エフェドラ・アルカロイド」という、覚醒剤の原料にもなる、危険な成分を含んだ商品が問題となっています。また、「センナ葉」という下剤のハーブを含んでいるものも、繰り返し摘発されています。

 どのような成分が含まれているかは、わかりにくい表現であったり、示されていないことがあります。健康被害を出した中国製品では隠されていました。

 被害を受けないためには、信頼できるところで購入することです。また、販売業者の言い分を鵜呑みにせず、別の薬剤師や医師などに相談をすることも有用です。

 やせるためにサプリメントを使うことは、あまり効果がありません。安全なものを使っていては目立った効果をあげないために、医薬品を混入する不届きな業者がたえないことからも、効力の弱さがわかるでしょう。お金のムダにならないように、冷静につきあうことが大切です。

(3) 医薬品の原石? イチョウ葉

2003年4月

 「ぼけ防止に効く」「頭が良くなる」としてブームになっているイチョウ葉エキスについて考えてみましょう。前回は、医薬品がサプリメントに混ぜ込まれる危険を紹介しました。今回は、品質と効果が保証されない問題を取り上げてみます。

 1960年代にドイツで医薬品として開発されてからイチョウ葉が注目されるようになりました。ヨーロッパなどでは医薬品として使われるていますが、アメリカと日本では食品として販売されています。

 イチョウ葉には、活性酸素の毒性を消す作用や炎症を抑える効果を持つ成分が、いくつも含まれています。これらの成分が脳の血流を増加させ、記憶力に障害がある患者の認識力を向上させるという臨床報告があります。

 しかし、効果があるとした臨床報告は試験規模が小さくて信頼性が乏しく、近代的な方法に基づく大規模な比較対照試験で有効性を認めた報告は、まだありません。昨年8月のアメリカでの大規模試験に関する報告では、健康な老人に対する学習能力の向上について効果が認められませんでした。

 高齢者が増える一方で「ぼけ」に効く薬がないため、イチョウ葉の薬効に対する期待にはたいへん大きなものがあります。しかし、医薬品としては科学研究が十分でないため、どのような病気に効果があるのか、複雑な植物成分のうち何が効果を上げているのかはわかっていません。

 健康雑誌の記事などの形で、老化に関係する健康不安に対して万能の効果があるといった宣伝をおこなっていることは、問題です。医薬品として使うならば、きちんとした臨床試験をおこない、効果がある患者に限って使うべきでしょう。

 品質の問題も出てきています。イチョウ葉にはアレルギーを引き起こすギンコール酸が含まれています。銀杏の実を包む果肉に触れたときに、かぶれを起こす成分です。湿疹を起こすだけでなく、重い場合は呼吸困難を起こします。

 ドイツでは、副作用を引き起こす成分を取り除くことが決まっています。日本では何の規制もなかったため、昨年11月に発表された国民生活センターの報告によると、ドイツの規制値の8万倍もの量が含まれている商品や、薬効を示す成分がほとんど含まれていないものも流通していました。

 将来、有用な薬になる可能性は感じられますが、現在は怪しい商品が多いですね。また、予防で使うには効果が弱いものに、一ヵ月あたり数千円の費用を使うことはもったいないと考えますが、あなたはどう思いますか。

(4) ガン・ビジネスが作り出した「奇跡の茸」
アガリクス(前編)

2003年5月

 健康不安に便乗して利益を上げる企業姿勢が問題になっています。今回は、ガン治療をうたう商品の中でアガリクスを取り上げてみます。

 「免疫力を高める」ことで「ガンを治す」と解説本などで紹介しています。動物実験のデータと権威のある学者・研究機関の報告を示し、ガンが治った体験例を紹介することが、宣伝の定石となっています。最近では、アメリカの医師向け書籍「PDR」に製品が掲載されたとの宣伝も登場しています。

 キノコがガンを治すという説は、以前からありました。キノコから抽出した成分が腫瘍細胞の増殖を抑えるという動物実験のデータがあることも確かです。

 日本では、カワラタケから製造した製品が抗ガン剤として1977年から使われてきました。しかし、1989年の薬効再評価によって単独での効果は否定され、化学療法の補助として使った場合に生存期間の延長が期待される状況です。アガリクスの成分がそれ以上に効果があるという報告はありません。

 また、国立がんセンターのホームページのQ&Aでも紹介されていますが、存在しない研究報告などウソのデータにもとづいて効能が宣伝されています。

 アメリカでは、1994年に栄養補助食品・健康・教育法を制定して以来、科学的根拠を示して連邦食品医薬局(FDA)に届け出れば効果・効能を表示できます。この根拠が正しいかどうかはFDAによっては保証されず、自己責任の世界です。アメリカの本に載ったことは、食品としての品質が安定していることを示していても、効能についての保証を与えるものではありません。

 ガンへの治療に使えると考える研究者・企業は、医薬品の製造承認のルールにあった試験をおこなうことが患者に対する第一の義務です。

 次回は、経済面での影響を検討しましょう。

(5) ガン・ビジネスが作り出した「奇跡の茸」
アガリクス(後編)

2003年6月

 アガリクス製品の市場規模は2002年で730億円と推定されています。1999年には60億円台、2001年には220億円でしたから、その急成長ぶりが注目されます。

 サプリメント全体を見ると、売れ筋としてビタミンC・カルシウム・ローヤルゼリー・食物繊維・クロレラが、ベスト5になります。2001年度の調査で、それぞれ400〜500億円規模でした。

 アガリクスが問題となるのは、前回紹介したように効果が実証されていないにもかかわらず、大変高価な商品が販売されていることです。トップシェアを持つK社の製品では、普及品が30回分で12,000円、有効成分の濃度が高い製品では60回分で98,000円となります。

 1日に2〜3回の服用を標準としていますが、「体力不足のときには少し多めに」飲むことも勧めています。患者にとってみると、標準的使用量よりも多めに使うが普通になってしまいます

 医薬品として使用されているカワラタケ抽出物は、1か月使用したとして、先発品が57,000円、後発品で22,000円の価格です。

 普及品同士を比べても、標準使用量で1.6倍の金額になります。健康保険がきかないもので、有効性も保証できない商品が、家計を蝕むことは問題です。この商品を製造しているトップメーカーが製薬企業の子会社であることは、企業倫理が問われるものです。

 また、免疫機能を高めるために1日1包(400円)からでも、という宣伝がなされています。ガンの予防をうたって、健康人にも利用を薦めるものです。しかし、キノコを食材としてメニューに加えた場合、400円もあればもっと食事を豊かにできます。お金はもっと有効に使いたいものです。

 不安につけ込む、抗ガン・ビジネスにだまされないようにしましょう。

 次回以降、ビタミンC・カルシウムを取り上げていきます。今後、取り上げてほしいものがあれば、ご連絡下さい。

(6)以降の続編へ
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