協同組合 医療と福祉
協同組合報 Vol.3, 2003年6月30日
事業所を訪ねる 2
(株)外苑企画商事 ひいらぎ薬局
常磐線・新松戸駅を降り、ロータリーに沿って左にカーブしながら1分ほど歩くと、鮮やかなオレンジ色の外壁が目に飛び込んでくる。「ひいらぎ薬局」の看板もオレンジ色だ。
「駅前というのは雑然としているでしょ。その風景に埋もれさせないためにはどうしたらいいか。そうだわ、色で工夫しようと思ったんです」そう話すのは設計の段階からかかわった管理薬剤師の大塩厚子さんだ。室内の配色にもこだわった。北向きのため窓を大きくし、壁はクリーム色、ソファは外壁と同じオレンジ色にして、明るさ、あたたかさを強調した。業者から「薬局の設計をいくつも手がけてきたが、オレンジ色は初めてだ」と言われた。小さな薬局は、まず色で自己主張する。
「医薬分業が進み、処方箋をどの薬局に出すかは患者さんが決める時代ですから、私たちは選んでもらうための努力をする必要があります。『入りやすさ』という点では成功しているんじゃないでしょうか。薬の質問だけで入ってくる人もいるし、道を尋ねて飛び込んでくる人も多いですから」
2002年5月開設、大塩さんを含めて3人の薬剤師が切り盛りする。すぐ近くに東京勤医会の新松戸診療所、新松戸歯科、新松戸メンタルクリニックの入っているビルがある。こうした勤医会の医療機関も含めて、1年間で約90の医療機関の処方箋を受け入れてきた。レセプト枚数は月に約1200枚、近くの開業医を受診する患者さんも増えつつある。
今、インフォームド・コンセントが進み、薬の情報開示に対する認識も高まっている。しかし、薬の名前の開示は進んできているが、「副作用情報」となると、まだまだの感が否めない。
どんな薬にも副作用はある。それを説明すると、「患者さんは薬を飲まなくなって、結局、患者さんのためにならない」という考えがまだ根強いのだ。だが、「そうではない」と大塩さんは力説する。その例として、こんな患者さんの話をしてくれた。
Sさんは顔面をゆがめながら相談に来た。聞けば、三叉神経痛の薬を1回3錠飲んでいて(この薬は他薬局でもらっていた)、ふらつきがひどくて、医者に黙って服薬を中止しているという。それでまた痛みがぶり返し、相談に来たというわけだ。
「三叉神経の薬は量が多いとふらつき、めまいなどの副作用が出ることがあって、減らせば副作用の症状が抑えられる場合もあります。副作用が出た場合、二度と使ってはいけないもの、薬の量を減らせばいいもの、いろいろあるんです」
そこで、Aさんにまず、医師の処方の理由と服薬の必要性を理解してもらい、副作用について説明したうえで、こうアドバイスした。「先生に副作用が出て中断したことを正直に話し、『量を減らしてほしい』と率直に言ったらどうでしょうか」。Aさんはその日のうちに医者に行き、処方箋を持って来た。処方箋に書かれた薬の量は減っていた。
驚いたことに翌日、報告に来てくれた。「こわばっていた口も開けられるようになって、入歯の治療もできるようになった」と喜んでいた。
「患者さんが出された薬に不安をもち、黙って内服をやめたとしても、それを私たちに伝えてくれれば、一歩踏み込んだ対応ができる。つまり、薬を変更するか、減らすか、納得してもらったうえで続けるか、という次の判断が可能になります。薬の情報を伝えたから中断になるわけでは決してないんです」
薬に関する不安や疑問を医師には聞きにくいという患者さんでも、薬局なら気軽に相談できるという。ここでは処方箋で出された薬はもちろん、サプリメント、健康食品のことまで質問の内容は多岐にわたる。その一つひとつに丁寧に答えながら、「今度、受診したとき、先生に聞いてみてください」との助言を忘れない。薬の情報公開をすすめつつ、患者さんと医者をつなぐ役割も担う。
「これだけ医者にかかる人がいて、これだけ薬が出されているのに、患者さんが薬の使い方をきちんと教えてもらえる機会は本当に少ないです。私たち現場の重要性はますます大きくなっています」
ひいらぎ薬局では処方箋の調剤のほかに一般の医薬品(OTC)、ガーゼや介護用品といった医療材料も扱っている。しかし、他の薬局と違う点がある。ドリンク剤は利幅が大きいが、あえて置かない。ティッシュペーパーなどの生活用品も置かない。OTCについても、副作用に注意し、「この薬を1日2日飲んでみて、きかないようなら医者に行ったほうがいいですよ」とアドバイスしたうえで販売する。徹底して患者さんの安全性を追求するのが(株)外苑企画商事の精神である。
ところが今、安全性に逆行する大問題がある。市場活性化の名のもとに、品目は厳選するとはいうものの、OTCがコンビニなどで自由に販売できることが今国会で決まったのだ。
「これは非常に危険なことです。OTCはドリンク剤とは違う。ただのじんましんかと思っていたら、スティーブンス・ジョンソン症候群で手遅れになってしまうということもあり得るんです。コンビニだったら、ただ売るだけになってしまう」
スティーブンス・ジョンソン症候群は解熱鎮痛剤など一般的な薬の副作用によるものもあり、進行が早いために見過ごすと重篤な症状になり、死亡する例もある。患者会の人たちも立ち上がって注意を喚起するようになってきたが、私たちが知り得る薬の副作用は厚生労働省に報告されるそれの氷山の一角に過ぎないのだ。
内科にも眼科にも歯科にもかかっているDさんは、「薬はひいらぎ薬局でもらう」と決めているそうだ。薬の経歴、そのときどきのアドバイスが全部コンピュータに入力されているから安心できるというのだ。どこの医療機関にかかろうとも、処方箋は同じ薬局に出し、薬の重複投与、相互作用をチェックしてもらう。これを「かかりつけ薬局」という。
「患者さんは『かかりつけ薬局』と意識しているわけではないんですが、『今までの経過をわかってくれている』という安心感でうちを選んでくれる。こういう患者さんが増えています」
薬剤師20年のキャリアをもつ大塩さんは、これまで、たくみ外苑薬局、わかば薬局と大きな薬局で働いてきた。処方箋1日500枚の現場はまさに時間とのたたかいだった。
「処方箋の向こうにいる患者さんが見えなくなるような感じがあって、それが不安な時もあった。小さな薬局で1人ひとりの患者さんとじっくり話せるのもいいなあと思ってます」
2年目、やりたいことは山ほどある。 (文・志賀由美子)