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本態性振戦に対してマイソリン(プリミドン)を使用した症例のまとめ

第35回 日本薬剤師会学術大会
2002年10月27日
9 薬剤情報と薬剤師 (ポスターセッション) P184.

林 雅子、西園寺 綾、山田 真樹、平泉 君江(わかば薬局)

はじめに

 本態性振戦は上肢・頭部・下顎・舌の振戦をほとんど唯一の症候とする疾患であり、いまだにその病態については解明されていない。振戦による日常生活の障害は軽微なことが多く、軽症でADLやQOLを妨げていない場合の治療は不要である。
 薬物療法としてはマイナートランキライザー、β遮断薬、抗てんかん薬の少量投与などが主に挙げられている。

 わかば薬局でも2001年より抗てんかん薬である、マイソリン(プリミドン)の少量処方をうけ始めた。当初、この少量投与法を判断することができなかったが、マイソリンは海外において本態性振戦の第一選択薬として広く使用されているとあった。
 そこで今回、本態性振戦に対してマイソリンが処方された患者に対し、アンケート調査・カルテ調査を行なったので報告する。

調査方法

 2001年2月〜2002年3月の間にマイソリンが処方された患者6名に対し、当薬局でのアンケート調査と、処方医療機関の許可を得てカルテ調査を行なった。

 有効性の評価は渦巻書・書字による他覚的指標とADLの改善等による自覚的指標をもとに、診察にあたった神経内科医による判定を総合評価とした。

−初回来局時の聞き取り−

−2回目以降来局時の聞き取り−

結果

<有効性について>

・有効  2例 症例1:手、首に振戦あり。手は有効(++)、首は無効(−)。
症例2:手の振戦に効果(++)。
・やや有効 1例 症例3:手の振戦にやや有効(+)。
・無効   1例 症例5
・判定不能 2例 症例4:コンプライアンス不良。
症例6:1回服用で中止。

<副作用について>

 副作用は6症例中2症例に見られた。

<投与量について>

全症例、25mg 1×でマイソリンを開始。

・25mg継続  2例 (症例2、3)
・投与量増量 2例 症例1:25mg → 50mgに増量。
症例4:25mg → 250mgに増量。
・服用中止  2例 (症例5、6)

<併用薬について>

・併用薬なし 2例

症例1: 気管支喘息あり、β‐blocker禁忌。
症例6: マイソリンは副作用のため中止。以後、他剤服用もない。

・インデラル併用 2例

症例2: 以前より服用していたインデラルに本人の希望によりマイソリン追加。
症例5: マイソリン処方後インデラルを追加。しかしふらつきが出現し、インデラル中止。その後、マイソリン無効によりリボトリールに変更。

・インデラル・リボトリール併用 1例

症例3: 他院からの継続処方にマイソリンを追加。

<副作用について>

 6症例中2症例に副作用が見られた。

 症例1のように治療が有効(++)である例では、眠気という副作用が出現しても服用を続けることが可能であった。「マイソリン導入期のこのような副作用は、服用の継続により軽減することが多い」という事を患者さんに伝えることで、治療継続の可能性を向上させることができるのではないかと考えた。

 症例6は83歳と高齢であり、ふるえの程度も低かったのでめまい・ふらつきという副作用が出現した時点ですぐに服用を中止するのは当然の処置と考えられる。

<投与量について>

・マイソリン開始量

 各文献によると副作用は投与初期に出現しやすいので、より少量から漸増することが提言されている。今回の症例でも25mg/dayと少用量からの開始であった。

・マイソリン維持量

 有効量を維持量としているため投与量は症例により25mg〜750mgと差があった。primidoneと、その主要代謝物phenobarbital、PEMA(phenyl ethyl malonamide)はいずれもその血中濃度と振戦抑制効果は相関しないので、血中濃度を根拠として投与量を決定することはできない。投与量を増量することは効果に比して副作用を増大させる可能性がある。したがって、投与量は症例ごとにきめ細かく決定する必要がある。

<補足>

 症例1は振戦が軽減してきているため、2002年5月15日から同量で隔日投与となった。今後、一度マイソリンを中止して経過観察となる予定。

 症例4は調査時点でマイソリンを一時中断していたが、マイソリンの服用を中止したところ、ふるえが増強したため、2002年10月4日から処方再開となった。現在は750mg/日を服用中で、本人によるとマイソリン中止時に比べてふるえは軽減しているとのことである。

考察

<有効性について>

 少ない症例数ながら、6症例中3症例が有効と、半数に改善を認めた。改善は手の振戦のみに見られ、マイソリンは手以外の身体部位における有効性が低いという報告通りであった。

 また、有効性の評価では以下のようなことがあった。

 症例2は渦巻き書を見る限り効果を判別することはできないが、患者自身の実感としてADLの改善がみられるとのことであった。
 一方、症例3は渦巻き書はマイソリン処方後にかなりの改善が見えるにも関らず、本人のADL等自覚的な有効感が得られていなかった。

 このように、他覚的指標と自覚的指標にずれが生じることもあり、それが総合評価の判定にも影響する例もあった。

まとめ

 文献によると、マイソリンは手の本態性振戦に対する高い有効性によりβ-blockerと並んで第一選択とされている。さらにマイソリンは禁忌疾患も少なく、長期服用に伴う副作用がβ-blockerより少ないとされている。

 今回の調査では併用薬もあり、他剤との比較は難しいが、マイソリンは6症例中3例に有効であった。副作用は、6症例中2例に出現したが、脱落例は1例であり、もう1例は継続可能であった。継続例は服薬指導の関与が治療の継続につながると示唆される症例であった。

 また、患者負担の面でもβ-blockerに対しマイソリンの方が安価であり、その点でも有用性があるといえる。

 以上より、マイソリンは治療の第一選択として価値のある薬剤であると思われる。今後も、副作用等のチェックを継続的に行い、治療へ貢献してゆきたいと考える。

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