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厚生労働大臣  坂口 力 殿

2002年1月 29日

薬害ヤコブ病被害者・弁護団全国連絡会議
  代表委員  中島 晃 ほか
  事務局長  尾崎 俊之
(連絡先)
 東京都豊島区西池袋1−17−10
 池袋プラザビル6階 城北法律事務所
   TEL(03)3988−4866
   FAX(03)3986−9018

薬事法改正に関する意見書

(薬事法改正の必要性等について−提案理由)

第1 はじめに

 わが国においては、サリドマイド事件、スモン事件、薬害エイズ事件等の過去、幾多の薬害事件を経験しながら、今般、またしても薬害ヤコブ病事件が引き起こされてしまった。

 医薬品等による副作用・汚染等の危害から国民の生命・健康を守るべき責任が製薬企業等にあることは言うを待たないが、医薬品等に関する安全情報は製薬企業等に独占され、また、その情報内容の専門性、技術性の故に、国民は自ら医薬品等の危害から身を守る術を持たない。そして、医薬品等の製造・流通が市場経済原理の下に置かれている現状においては、製薬企業等は、ともすれば医薬品等の安全性を無視して利潤追求に走りがちとなることは、これまでの薬害事件の経験が明らかにしているところである。このようなことから、医薬品等による副作用・汚染等の危害から国民の生命、健康を守る砦として機能することが強く期待されているのが厚生行政である。

 過去幾多の誠に悲惨な薬害事件は、このことを教訓として教えているのであり、今般の薬害ヤコブ病事件を通じて、厚生行政が医薬品の安全性確保を実効的に行えるよう、その体制を整備し直すとともに、そのための薬事法改正は、現在、必須且つ急務の課題となっている。

第2 薬害ヤコブ病事件の特徴と改正の方向

 今般の薬害ヤコブ病事件の大きな特徴として、以下の点を指摘できる。

 まず、第1に、1987年2月に米国MMWR誌に掲載されたライオデュラによるヤコブ病罹患報告、これを受けた米国FDAの安全宣言、輸入警告等の情報がわが国にも伝わっていたにも関わらず、何らの規制措置も取られず、徒に被害が拡大した。これは、国民に対する医薬品等の安全確保に最終的責任を持つ厚生労働省の著しい任務懈怠と言う他ない。したがって、改めて厚生労働省による医薬品等の安全性確保義務が薬事法上において確認されるべきであるとともに、厚生労働大臣の緊急命令権限の発動を一定の場合に義務化し、医薬品等の危害情報の活用について十分な組織的改編が行われるべきである。

 第2に、1973年のライオデュラの輸入承認審査時点においても、既にライオデュラの滅菌方法が完全なものではないことは国立衛生試験所において把握されており、また、ヤコブ病の伝達性、不活化の困難性は知られた知見であったにも関わらず、わが国最初のヒト死体由来の製品であるライオデュラについて、ドナーセレクションの有無等の必須の確認事項が全く審査されず、さらには、極めて杜撰な臨床試験報告書しか添付されていなかったにもかかわらず、不完全な審査しか行われなかった。したがって、医薬品等の承認審査体制が再構築され、また、危害情報等の収集義務が確認されるとともに、その収集体制が再構築されるべきである。

 第3に、1973年の輸入承認後においても、ヤコブ病の伝達性、不活化に関する知見情報が集積されてきたにも関わらず、厚生労働省(旧厚生省)は、こうした情報を満足に収集せず、徒手傍観して薬害ヤコブ病の被害を拡大させた。したがって、こうした点からも、厚生労働大臣による医薬品等の危害情報の収集義務が薬事法上明示されるべきであり、また、市民による緊急命令発動の申立制度、市民参加型の医薬品等監視機関を設置するとともに、その実効性を確保するために、医薬品等の安全情報について、市民の情報開示請求権が認められるべきである。

 第4に、薬害ヤコブ病訴訟は、既に提訴から5年に亘る年月を要し、この間、被害者は、全く救済されないまま放置されてきた。したがって、薬害被害者の訴訟上の立証負担が軽減されるべきであり、また、医薬品副作用機構が真に薬害被害の救済に役立つような制度として再構築されるべきである。

第3 おわりに

 私たち薬害ヤコブ病被害者・弁護団全国連絡会議は、以上に述べたような認識に立脚して、薬害防止策として薬事法の改正並びに厚生行政の抜本的な再構築について意見書をまとめて提案することにした。

薬事法改正に関する具体的意見

第1 厚生労働大臣の国民に対する義務の明示

1 医薬品等の安全性確保義務
 薬事法第1条の2に以下の規定を創設する。
「厚生労働大臣は、すべての国民に対し、医薬品・医薬部外品・化粧品・医療用具の安全性を確保する義務を負う。」

2 危害情報の収集義務
 薬事法の所定箇所に以下の条文を追加する。
「厚生労働大臣は、医薬品・医薬部外品・化粧品・医療用具の副作用情報、汚染情報等の危害情報につき、国際的にみても最高水準の医学的・薬学的知見に基づいて、これらの情報を収集しなければならない。」

第2 厚生労働省の医薬品等の安全性確保に関する体制の整備・強化

1 医薬品等の承認審査体制の抜本的改革
 現行の治験審査制度を抜本的に改革するとともに、医薬品等の承認審査にあたって、現行の中央薬事審議会による外部審査方式を根本的に改め、厚生労働省内に米国FDAのような内部審査方式を導入し、その人員、予算等を米国FDA並に飛躍的に充実する。

2 医薬品等の市販後監視体制の抜本的拡充
 医薬品等の市販後監視体制の抜本的拡充のために、副作用モニター制度の改革、GPMSP制度の改革、再審査・再評価制度の改善、副作用情報収集制度を抜本的に強化し、後述の市民参加型の医薬品等監視機関を設置する。

第3 緊急命令等の規制権限の義務化

 現行薬事法第69条の2の緊急命令権限につき、第2項に以下の条項を追加、創設する。

「厚生労働大臣は、医薬品・医薬部外品・化粧品・医療用具につき、その副作用及び汚染等により、死亡その他の重篤な事故の発生が疑われる場合には、前項の命令を発しなければならない。」

 また、この緊急命令義務に違反した場合には、厚生労働大臣をはじめ厚生労働省の担当部局の職員に刑事罰を科するように法改正すべきである。

第4 国民の規制権限発動についての申立制度、及び、市民が委員として参加する医薬品等監視機関の創設

1 規制権限発動の申立制度
 国民の生命、健康を害する疑いのある医薬品等につき、国民が厚生労働大臣に対し、緊急命令等の規制権限の発動を求めることができる申立制度を創設する。当該申立については、厚生労働大臣にはその結果及び理由について応答義務があること、不服申立方法、厚生労働大臣及び申立者の免責条項を含めた手続規定を制定する。

2 市民参加の医薬品等監視機関の創設
 厚生労働省や製薬企業等による医薬品等の安全確保を填補監視するため、市民が参加する医薬品等監視機関を創設する。同監視機関には、厚生労働省、関連法人、製薬企業等に対する調査権限、緊急命令権限を付与する。

第5 医薬品等危害情報の情報公開

 薬事法上、国民の医薬品等の安全情報についての、国民による、厚生労働省・同省関連法人・製薬企業等に対する情報開示請求権を明示する。
 この場合、現行情報公開法に規定されている非開示情報等の規定は一切適用されないものとする。

第6 訴訟救済時の立証負担の軽減

 薬事法上、被害者が国(厚生労働大臣)、製薬企業等の責任を追及するにあたって、当該医薬品等の通常の使用により被害が発生した場合には、当該医薬品等の副作用・汚染等の欠陥及び因果関係並びに国・製薬企業等の過失が推定されるものとする。この場合、製造物責任法(平成6年法第85号)上の開発危険の抗弁の規定(同法第4条1号)は適用されないものとする。

第7 医薬品副作用被害救済・研究振興調査機構の改組・改正

 医薬品等の被害の適正、迅速な救済のために、以下の点を改正する。

  1. 現行の医薬品副作用被害救済・研究振興調査機構を改組し、同機構の事務を被害救済に専念するものとする。
  2. 救済対象を医薬品副作用の「副作用被害」に「欠陥、汚染その他による危害」を追加して拡大し、法第2条第2項の除外医薬品規定、法第2条第3項の適応外使用の場合の除外規定を廃止する。
  3. 損害賠償責任者の存在の有無に関わらず全ての被害を迅速に救済するものとする。
  4. 軽度の被害の場合にも救済対象とする。
  5. 機構の運営に市民等が参加し、被害救済の判定過程を透明化する。
  6. 除斥期間を伸長する。

                                    以上

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