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日本薬学会第120年会・岐阜 2000年3月29日 29[PE]10-50

介護チームの一員としての薬剤師

○伊藤知美、鈴木清恵、松本伸丈、大塩厚子、藤竿伊知郎

【目的】

在宅患者さんへの訪問を通し、チームでのアプローチと、薬剤師がになう役割について検討したので報告する。

【方法】

1999年4月〜10月に79件訪問した中で、特徴的な2例について紹介する。

症例1 Kさん 70歳代後半 男性

一人暮らし、(ヘルパー・訪問看護・ボランティアのサポートあり)

〈基礎疾患〉

 アルコール依存症、肝硬変、心不全、気管支炎、脳梗塞、糖尿病、大腸癌術後

〈経歴〉

20年前 アルコール中毒で入院
5〜6年前 大腸癌で手術し人工肛門になる
1998.10.30 路上で意識混濁、嘔吐にて倒れているところを発見され、Y病院へ入院
11.14 退院するが、通院中断
11.19 市役所よりT病院に相談があり自宅に訪問したところ、裸で倒れているのを発見
 → 亜急性硬膜下血腫にて入院 右片麻痺になる
1999.1 往診となる
1999.9.10 在宅訪問依頼を受ける
訪問看護婦がジゴシンだけでも服用するように説明するが、1週間で1回のみの服用。服薬状況の改善が見られないため訪問依頼となる。

〈1999年9月〜2000年3月まで14回訪問した主な経過〉――症例1

訪問日 服薬状況・Kさんの状況 Kさんへの働きかけ スタッフへの働きかけ 結果
1999 パンツ一丁で座っていた。山のような残薬が戸棚にあり、整理、回収した。退院時の薬は少し服用していた。   医師へ 9.27
9.1 薬は箱に入れて、手元に置いてある。   すべてを1包化するために、30日分の薬も14日分で出して欲しい。 すべて14日分となる
9.27 30日分の薬が、袋ごとそのまま残っていた。
「退院後徐々に薬の服用がいいかげんになってきた。入院中のトレーセットはわかりやすかった。」と本人談
薬を服用することの大切さ(特にジゴシン等)について話をした。 医師へ
(1)寝る前の薬は服用しなくても眠れるとのことです。
(2)トレーのような物を作り、ヘルパーさんと協力して服薬をすすめたい。
10.6
寝る前の薬なしになる
10.8 2週間分の薬のうち、朝1回、昼2回、夕1回しか服用していなかった トレー型の薬入れを1週間分セットしておいてくる。 ヘルパーさんへ
朝の薬だけでも飲むように声をかけてください。
 
10.14 ほとんど服用していない
お薬カレンダーを見て、「いいものを作ってくれた」と喜んでくれた。
お薬カレンダーを作成し、2週間分セットしておいてくる。 医師へ
変更が可能であれば、用法を検討して1日1回にして頂きたい。
10.25
薬は朝食後だけに減量
10.26 朝 残薬なし
昼、夕2回分ずつ残薬あり
「薬を飲むと、調子いいよ」
今回より朝1回のみの薬となる。 医師へ
服薬開始と同時に、ジゴキシンの血中濃度が気になる。採血予定日を連絡いただければ、服用中止の処置など協力したい。
 
11.9 残薬なし
「朝起きたら、薬をとってこたつに座り、食後に服用している」 
「このままがんばって飲んでください。」
   
2000 9日分残薬あり 「朝おきたら薬をとってこたつに座るようにまたがんばって」 とはげます    
1.7 年末年始服用していない      
2.21 3日分残薬あり   ヘルパーさんより
「何時ごろまでなら服薬をすすめて良いか」と質問あり、「利尿剤が入っている為、昼過ぎぐらいまでなら飲んでも良い」と答える。
 

対応方法の推移

〈症例1のまとめ〉

  1. 退院した直後や、お薬カレンダーを渡した直後には自分で服用しようという姿勢がみられたが、継続することができず、自立しての服薬は困難なケースであった。
  2. 訪問の度に薬の飲み方を確認してきたが、「なんか忘れちっゃうんだよなあ」など、服薬の重要性の自覚が見られなかた。ホームヘルパー、市の訪問看護婦等と協力しなければ服薬の改善は見られなかったであろう症例だった。
  3. 投薬カレンダーを1週間のトレー型から2週間のボード型に変えたことで、誰にでも服薬状況を確認しやすくなったこともコンプライアンスの改善につながったのではないかと思われる。
  4. Kさんは「入院はもうしたくない」といって服薬をがんばっている時期もあった。また、「いろいろな人に来てもらえて幸せ者だ」といっていたのが印象的だった。
  5. これからの課題としては、ヘルパーさんは変わることが多く誰でも薬のチェックができるように、連絡ノートなどを作って意思疎通をはかっていきたい。



症例2 Aさん 70歳代前半 男性

家族6人暮らし 介護者は妻

〈基礎疾患〉

 肺気腫、慢性呼吸不全 

〈経歴〉

  40才頃から気管支喘息の治療を受けていたが、肺気腫を合併し1992年より在宅酸素を導入した。   1995年には気管切開し、気管ボタン、在宅酸素となった。
 1998.4.27 在宅訪問依頼を受ける
         医師より“患者さんの希望を聞いてください”とのコメントあり

〈初回訪問時の問題点〉

  1. ネブライザー(吸入器)、ハイミニック(吸引器)の洗浄をしたことがない
  2. インスパイアイース(吸入補助器具)が破れて、器具の内側にカビも生えている
  3. 吸入液の調整方法を理解していない

〈1999年5月〜2000年3月まで17回訪問した主な経過〉――症例2

  訪問者 吸入と機器の状況 医師への報告や提案 結果
19995.14 T (1)2〜3年前にもらったインスパイアイースの破れたところにセロテープを貼り使用していた。マウスピースの内側に黒かび →  翌日、インスパイアイースを交換した。
(2)アレベール、ベネトリン、ビソルボン1日量を混ぜて置いてあるため白い沈殿ができている。
アレベールとの混合で沈殿が生じている為、可能であれば生理食塩水に処方変更を依頼。 5.25
アレベールと同量の生理食塩水に変更
5.27 T 以前ネブライザー、ハイミニックともに洗浄したら動かなくなった。
以後洗浄したことがない → 次回訪問時に洗浄することにした。
吸入用の生理食塩水が不足する事があり、購入していた。生理食塩水の増量を提案。 6.15
生理食塩水増量
6月 O (1)ハイミニック、ネブライザーは、きれいになっていた。
(2)マウスピースは洗浄したことがない
 → 寝る時にマスキン液につけて、朝洗ってから使用と説明。
   
7月 SとO Sの訪問時  疲れていてマウスピースの洗浄ができないので、消エタでふくのみ。
Oの訪問時  マスキン液を購入してもらい、マウスピースの洗い方再説明
   
8月 S マウスピースの洗浄がめんどうでできない。
 → マウスピースの予備を1個購入してもらい、水洗と乾燥を説明
だいぶやせた為、おしりが痛い。栄養をつけたいとのことで、テルミールミニ(200kcal/本)を販売した。 食欲UP、おしりの痛み軽くなった。
11月 I (1)ハイミニックのチューブ、マウスピース新しい物を購入してあるが使用していない。「お正月になったら使いたい」マウスピースの洗浄を申し出たが、断られる。
(2)インスパイアイースが汚れていたので交換する。水洗いは行えていなかった。
イソジンガーグルをかなり稀釈してつかっているので、濃い目にするように説明。イソジンガーグルの増量を提案。 処方変更なし
20003月 I (1)チューブ、マウスピースともに新しいものに変わっていた。マウスピースは消毒用エタノールでふいている。
(2)11月同様インスパイアイースが汚れていたので、水洗いを再説明。
   


〈症例2のまとめ〉

  1. Aさんはたいへん物を大切にする人で、機器の汚れよりも、使える間はセロテープを貼ってでも使いたいという人である。機器の汚れが肺におよぼす影響について説明すると、理解は示したが、壊れるまでは使いたいという気持ちが強いようであった。洗浄だけでもしたほうがよいということで消毒方法を説明したが、介護者も高齢のため理解を得られなかった。薬剤師の説明にも無理があったと思われる。
  2. 訪問者が毎回変わってしまったため、指導内容がAさんにとって負担であることに気付くのに時間がかかってしまった。介護者に医療従事者と同じ説明をすることは無理があり、家族の介護力を考えその人の出来る範囲での指導をしなけばならないことを学んだ。
  3. 薬剤師が訪問したときに、マウスピースの洗浄を行うことを申し出たが、辞退されてしまった。現時点での、私達とAさんとの信頼関係を表していると考えられる。また、在宅の患者さんと、洗浄を断る事など考えられない入院患者さんと、各々の関わり方の違いを示すエピソードと思われた。
  4. ようやく在宅訪問を始めた頃で、手探り状態だったため、相手がよく見えずに、薬剤師の指導が先行しすぎ失敗、反省を繰り返したケースである。それでも訪問すると、いつもニコニコ気持ちよく応待してくれるAさん夫婦の本当にして欲しい事、願っている事は何であり、どんな方法で手助けできるのか考えながら、これからも関わっていきたい。

【考察】

2症例を通して

  1. 同じ人が訪問することにより、患者の状態変化・患者との信頼関係・家族の介護力などを把握する事ができ、適切なアドバイスにつながる事を学んだ。
  2. 入院・外来患者と在宅患者の環境・生活の違いを踏まえながら患者と介護者が実行することのできる説明が大切である事を学んだ。
  3. 薬剤師が把握した問題点であっても、薬剤師だけで解決するには困難な事が多く、医師・看護婦・ヘルパー・福祉職員等がチームで患者にアプローチすることにより、在宅医療がよりよいものになると感じた。

在宅訪問全体を通して

  1. 便通・睡眠・皮膚症状などQOLを高める薬に対して、患者や介護者の関心が高く、薬剤師による説明が求められた。
  2. 私達の訪問を待っていてくれる方が多く、会話のできる患者さんは、現在の状態や今までの経験など聞くことができ、患者理解につながった。
  3. 介護者の気持ちを聞く事もでき、勉強になった。介護者によっては、私達と話をすることでストレス解消になっている方もいて、訪問活動は介護者にとっても良い面があると感じた。
  4. 介護チームの一員として薬だけでなく、消毒の仕方・介護用品などいろいろな方面のアドバイスができるように、さらなる学習が大切であると感じた。
  5. 薬剤師の訪問活動が認められつつあり、最近では在宅以外の患者さんの訪問依頼を受けることもある。保険で認められている活動ではなく、ボランティア状態である。しかし、患者さんと医療スタッフが必要としてくれる為、今後も活動の場を広げていきたい。近い将来、外来通院患者さんへの訪問を保険で認められることを願って・・・。

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